深夜になると、気温も下がる。ネオンが綺麗に見えてきた。国道を走らせること30分弱。目的地に到着。どうやらお客様のご自宅。単身者用の新しいアパート。

(さて!)

「お客様ぁ〜! 着きましたよ!」

やはり、お客様は眠られていて起きられない。何度かお声掛けするも、まったく反応なし。私どもドライバーは、お客様のお身体には触れられない。

泥酔していても何度もお声掛けするしかない。窓とドアを明け、外の冷たい風を入れた。お声掛けして格闘すること10分。ようやく、言葉が出てくる。何度もお声掛けをし、促しながらお財布を出してくださるように言う。カバンをガサゴソ……。

これがまた、時間がかかる。お客様は財布を探しながら、イヤホンをいじったり社員証をいじったりしている。(いやいや……ソレ違うからっ! 早く財布を出してくだされ)

さらに10分経過……。やっと財布を取り出し、精算。外からドアを明け、降車を促す。

「お足元にお気をつけくださいませ。○○交通をご利用いただきまして、ありがとうございました」

お客様は、フラフラ、グラグラ状態。アパート入り口に向かわれた。ホッとし、車内に戻った。しかし、お客様のご様子が気になり、車内よりしばし見守った。お客様は正面玄関手前の階段を5段くらい昇った。転がりやしないか? ヒヤヒヤ……。

そして、壁を相手に誰かと話している(笑)。さらに右に左にふらつきながら、エントランスを抜けるキーを探していた。階段から転げ落ちたりしないか? もう、私の心は母心になっていた。

ようやっとキーを取り出し、エントランスを入っていった。(良かった……ちゃんと暖かくして寝てくださいね。ご乗車ありがとうございました)

深夜のお客様は、お酒を召していらっしゃる方が多い。なかには、感じの悪い方もいる。だが、ご自宅に着き、降車されるときには皆様、穏やかな表情になられる。安心されるのだろう。

私はどんなお客様にも、降車される際には感謝の気持ちと、幸せを願っています。お客様が笑顔で過ごせますように。

それが私にできる、唯一のことだから。

ご乗車いただいた方々がお幸せになりますように。そう願いを込めて、横浜の街を走っている。