したがって、働く目的の正解が、一つしかないということではありません。別な言い方をすれば、普遍的な一般解があるわけではなく、個別解しかありません。

個別解が、その人のその時点での最適解になります。敢えて不正解と言えば、答えがないということです。もしないとすれば、その職人は、仕事をしているのではなく作業をしていると言えます。

次に、三人の石切職人の働く目的を整理してみましょう[図表2]。

[図表2]

Aさんは社会的意義を感じて、Bさんは自分の成長や向上のために、Cさんは報酬のために働いています。Aさんは、CさんとBさんとは明らかに違う欲求です。他人のために自己実現する欲求です。求める欲求ではなく、他人に与える欲求です。利他の心ともつながります。

CさんとBさんに共通しているのは、二人とも基本的には、自分のために欠乏しているものを満たそうとする欲求です。例えば、お金がなければお金がほしい、お腹が空いたら食べたい、眠たくなったら寝たい、できないことがあればできるようになりたいです。このように欠乏しているものを満たそうとする欲求は、人間としての基本的な欲求です。

以上のように、人間の欲求レベル(段階)に応じて、働く目的が違うことがわかります。人はそれぞれ働く目的が違うので、十人十色です。

人間の欲求に関しては、マズローの欲求五段階説が有名です。人間の欲求は、低次の生理的欲求、安全欲求、所属と愛の欲求、承認欲求、高次の自己実現欲求に段階を踏んでいくという説です。

前段階の欲求が満たされないと次の欲求段階へ移行できません。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『もし、アドラーが「しゅうかつ」をしたら』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。