宗易は、光秀の来訪を喜び、小さな東屋の一つに招き入れ、茶をたててくれた。初めて茶の湯を味わった光秀は、大きな感銘を受けた。

「このような、心の落ち着きを得られるものが、今まであっただろうか」まるで静寂の中に、無の境地で溶け込んでいるような感慨に打たれた。その後、宗易は光秀が初めて見る道具を持ち出し、中庭に降り立ち、

「これが種子島でおます」

そう言って、玉込めをし、火縄に火をつけた。火薬の焦げたような匂いがし、

「ドーン」

と耳をつんざくような音がしたかと思うと、半町ほど先の松の木に結わえつけてあった、分厚い木の板の中央に穴が開いて、木端が周りに砕け散った。宗易は驚いている光秀に向かって、

「これからの天下は、この鉄砲にかかっておます、鉄砲の扱いを学ぶのでしたら、紀州に行きなされ、紀州の雑賀さいかの鈴木孫一いう者は、鉄砲を扱わせたら一番の者で、この頃では自分でも製造しておりますわ」

紀州の雑賀党は、一種の派遣傭兵集団で、方々の戦闘において、各大名からの要請を受けて援軍し、得意の鉄砲を生かした集団で、紀州の紀の川の辺りに租界をつくり、住んでいる海賊でもあった。

光秀は、鉄砲の技術を学ぶために紀州に向かった。