夕方主人が来た。五日ぶり、あの瞬間の事、「もうあなたを愛せない」、「別れましょう」の決断をした事、思った事を話した。

結婚生活二十七年、出会って三十一年、長い間いつも一緒だった。こんなに簡単に崩れるものなのだと感じた。

「それはあなたの裏切りでそうなった」「あなたは言う事はないの」と聞くと。

「心からすまないと思っている。僕がすべて悪い。財産分与も君が思うようにしていいから」やはり思った通りの答え。

「離婚届の用紙はもらってきたので財産分与の事が済み次第提出しましょう」

「わかった」

八時を回った頃、息子達が来た。コーヒーを入れ四人で飲んだ。

「お父さんと別れる事になった」

息子達は目を丸くしてびっくりした様子。長男浩輔、コーヒーをこぼしそうになる。

「何があった!」

次男祐輔は顔が真っ赤になり、

「何で!」

と矢継ぎ早に言った。

「お父さんに恋人ができた」「お母さんは許せない!」「あなた達には迷惑をかけないように財産分与して、生きていけるから」

息子達は黙っていた。時間をおいてから、

「よく話しあって決めたんだろう? 反対はしないよ」

主人は何も言わない。一点だけを見つめている。想定内だった。これから、一か月の間にアパートを借りて出ていく予定と話した。

「わかった。決まったら連絡して。引っ越し手伝いに行くから」と。

帰って行った。涙が出そうだった。ガマン。主人の前で泣きたくなかった。主人も十時頃彼女の所へ帰って行った。本当にこれで終わりだと実感した。

主人の背中に「さようなら」とつぶやいた。

寂しくない! 私には息子達、孫がいる。寂しい思いをするのは彼だ。来月には住み慣れた家をでると思うとやはり切なさがこみ上げてくる。

主人の寡黙な性格が嫌になっていつも、いつもそうだった。話の空間が嫌でいつもどうでもいい話をして後悔ばかりしていた。主人を愛しているから出来たが結婚っていつもガマン、ガマン、そして忍耐だと思っていた。それが当たり前だと……。

残りの人生は自分の為に生きて行こう。後ろを振り返ることなく前を見て進んで行こうと心に決めて、ベッドに入った。