奇跡

島原から少し雲仙岳へ登りかけたところに、きぬいと峠という囲炉裏のある昔風の茶屋があった。島原へ行くたびに、その店に行くようになっていたが、そこで私たちは奇跡を見ることになる。

その店を贔屓にしているある人がいた。善一さんが地元の青年団の取材をしたときに知り合った青年Uさんだ。彼はミカン農家だが、農薬が原因の病気に悩まされ、そのことがきっかけで農薬の危険性、食の大切さを広報する仕事もするようになっていた。そのUさんが、杖をついてしか歩けない状態の善一さんを見て、ある人と引き合わせてくれたのだ。その人は、無償であちこちの病人を治療しているという。眉唾だった。

けれど、治療法がないと言われている病気。わらにもすがる思いで、その先生に会うことになった。

大分に住んでらっしゃるというO先生。30代後半くらいのロングヘアーのきれいな女性だった。その先生が、善一さんの足を何度かさすると、明らかに施術前より自力歩行の距離が伸びていた! 冷たかった善一さんのふくらはぎが、少し温まっていたのだ。奇跡だった。キリストのような力を持った人が、本当にいる! そういう先生と出会えて本当に嬉しかった。

しかし、普段、先生は大分に住んでいらっしゃるし、私たちは長崎市に住んでいる。そこで、私が先生に電話をし、「気」をもらって、先生の代わりに私が善一さんの足をマッサージするという方法をとった。

病気の善一さんにそれまで私がしてやれたことは、あちこちの病院へ車で連れて行くことくらいだった。善一さんにしてやれることがある。そして、それは善一さんの病気の改善につながる。このことはとても大きな意味を持った。さする前、氷のように冷たい善一さんのふくらはぎが、私のマッサージで温かくなる。奇跡はもう起こることはなかったけれど、夫婦で病気と闘っていくのだ、という心を教えてもらったことに対して、本当に感謝している。

6月7日の日記に、私はこんなことを書いていた。