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鶯の鳴く道

翌朝、百合は朝餉を済ませると、美沙伯従母おばに手伝ってもらって、初めて男の子の着物を身に着けた。袴(はかま)もちゃんとある。髪も昨日とは打って変わって、後ろに一つにまとめて元結で縛っている。

着終わると、伯従父おじと父の待っている座敷に行き、きちんと正座して、挨拶をした。

「伯従父上、父上、このように変わることが出来ました。誠にありがとうございました」

「うむ、良う似合うておる。せいぜい精進せよ」

伯従父はご満悦であった。聡順は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。困ったことに、本当によく似合っていた。実にしっくりと馴染んでいるのが不思議なほどだった。どこから見ても、瑞々しい若武者ぶりであった。

隠れて見ていたこの家の子供たちも、感心して眺めている。昨日の木登りの一件以来、めっきり大人しくなってしまった男の子たちであった。皆に挨拶をして、木村家を出たのは昼過ぎであった。

最初はやや緊張していた百合だが、じきに慣れて足取りも軽くなる。着物を汚してはいけないなぞと考えなくていいのが、誠に気楽であった。なぜかひどく歩きやすくなったような気がした。

「父上、木村の伯従父上の所では、皆親切にして下さいましたね。みんなとも友達になりました。千春さんはとても良い人です。また遊びに行きたいです」

「うむ、まあそのうちにな。百合、言葉遣いに注意しなさい。聡太朗の言葉遣いを思い出して話すと良い。あまり丁寧すぎると、女子であることがばれるぞ。それと、ここ暫くは学問と剣に精進せよ」

「はい、分かっております。父上、それと、唯ノ介とお呼び下さい」

「うむ、分かっておる。つい間違えただけだ」