笑顔は人を笑顔にする

夕暮れどき。

帰宅される方が増え、街中が、慌ただしくなる頃。

タクシーも忙しくなり始める。

アーケードを抜けたところで手を挙げていらっしゃる殿方。70代後半くらいだろうか?

少し離れたところに、40歳前後の女性も手を挙げておられた。

手前の殿方の前に停車。

こういう場合、手前の方が優先になる。

タクシーが停まると、女性も走ってこられた。

どうやら、お連れ様のようだ。

狭い一方通行。端に寄せても後続車は追い越せず、待たせてしまう。

「こんにちは。どうぞご乗車くださいませ。お待たせ致しました」

「こんにちは」

足が悪いのか(?)、お客様はゆっくり乗り込まれた。

女性は殿方に早く乗るように急かしている。

「ゆっくりで構いませんよ。お足元と頭にお気をつけくださいね」

「すみません」

「いいえ……構いませんよ」

女性のご乗車を確認しながら、

「ドアをお閉めいたしますね。お気をつけくださいませ」

ドアを閉めるときは、いきなり「バン!」と閉めずに注意を促しながら、二段階で丁寧にドアを閉めるようにしている。

「どちらまでお送り致しますか?」

「◯◯3丁目まで」

「かしこまりました。そちらの角を左に曲がり、◯◯病院のほうから抜ける行き方でよろしいでしょうか?」

「はい、そうです、そうです」

「それでは、出発致しますね」

後車にお礼の合図もしつつ、走り出す。

狭い道なので、安全確認をし、ゆっくり走りながら自己紹介を行う。

「ご乗車ありがとうございます。私、◯◯交通の一森と申します。安全運転でお送り致しますが、念のためシートベルトのご協力をお願い申し上げます」

「あ、お父さん、ベルトベルト!」

どうやらお客様は親子のご様子。殿方のシートベルトをしてくださっている。

「シートベルト、ありがとうございます」

「女性のドライバーさん、初めてです。コロナとかもあるし、大変ですね」

ひとしきり、マスクが買えない話や、◯◯区で罹患者が出たなど話され私は相槌を打ちながら運転した。