前に来たアルバイトの男の子は、明るくて接客上手だったが、その社交性が過度に私に及んでいるとおじさんたちに判断され、尋問責めに耐えられずに去った。

真面目な学生に可哀そうなことしないでください、と小さく怒った私に、おじさんたちはどこが真面目なもんか、と浮いて乱れたエピソードを並べて説明してくれた。その情報収集力には私も思わず唸ったけれど、結果的には、まだまだ人を見る目が備わっていないのだと己を知ることができたのだった。

その学生だけでなく、おじさんたちの審査に落とされて来なくなった客も何人かいた。私は優輝の母親であり、誰かが恋愛の対象だと感じたこともなかったのだが。

その日の夕食は、買い出しが間に合わなかったので、作り置きの冷凍カレーを解凍しただけの簡単なものだった。

「この果物じみて甘い味なあ。もう飽きちまったよ。もっと香辛料入れて辛くしてくれないかな」

「なに言ってるの。純粋な幼児用カレーならもっと甘いでしょ。これでもぎっりぎりの味付けなんだから」

「それはよくわかってるんだけどさ」

「お父さん。優輝の体に負担かけちゃ駄目だってのも、理解してるはずよね。優輝はまだ五歳なのよ」

未代は今、優輝の中で目覚めている父親に向かって話している。そして慶三は、優輝の体を通してカレーの味付けに文句を垂れている。同じ親子の会話でも、今の未代は娘の立場なのだ。

「あーつまんねえなあ。早く焼き鳥でビール飲めるようにならないかなあ」

慶三は黄色っぽいカレー皿から目を背けて呟いた。

「あと十五年我慢するの。それまでに飲んでるとこ見つけたら許さないからね」

「お前、優輝のことになると怖いな」

「当たり前でしょ。あたしだって親なんだから」

「俺はそのまた親だ」

「ややこしくなるから黙っててくれない? カレー冷めるわよ」

へいへい、と慶三は鼻に皺を寄せて、甘ったるいカレーを小さなスプーンですくった。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『小節は6月から始まる』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。