「さてフジオカ、仕上げにちょっと厄介なんだけど、中に巨大化した犬が二匹と、猫が一匹いるはずなんで、ちょっと連れてきてくれないかな」

「ええ? そういう役ですか……。ペットの魂はまた元に戻るんじゃないんですか?」

「もともと死んでたペットは成仏して天国に行くんだろうけど、この家で現在生きて飼ってたペットにも術がかかっちゃうらしくて、そうすると巨大化して元に戻らないらしいんだな」

桔梗がテヘペロ、という顔をしている。

「もうすぐここに大きなトレーラーが着くので、とっつかまえて入れちゃっておくれ」

「そうですね、近所で通報されて警察が調べに来るかもしれないので、急がなくては」

「ああ、それは大丈夫大丈夫。あらかじめ山田くんから、町内の自治会と警察を装って、今夜この家に抜き打ちの立ち入り調査をするので、ご迷惑をおかけします。危険な場合もありますので、不要不急の外出は控えて下さいってネットで流しといたし、万が一通報があってもうまく誤魔化してもらうように警視庁の上層部に釘をさしておいたから」

「警視庁の上層部……」

まったくお嬢様のコネは底知れないな、とフジオカは思った。
フジオカは口輪をされて唸りを上げている三頭を、やすやすとトレーラーへと積み込んだ。

「お嬢様、ミッション完了ですね」

「おお、さっき投稿の主から山田くんのところに、ゴールデンレトリバーの返還と慰謝料の請求が放棄されたって、感謝のメールが来てたわ」

「お嬢様、それであの巨大化した動物たちはどこへ持って行ったんでしょうか。まさか実験動物とか……」

「あーあのね。ベトナムとカンボジアの国境のジャングルの中に、一般には認知されていない超高級セレブのリゾートがあってな」

「はあ……」

「ワタシも小さい頃時々行ったことがあるんだけど、そこに世界の珍しい動物だけを集めたパークみたいな施設があってな、そこに一体五千万円で買ってもらったわ」

「そ、そうですか」

「まあ動物園の動物は可哀そうだなんてネットで寝言言ってるくそババアがいたけど、野生の動物の厳しさを本当にわかってんのかね。そういうやつはどうせもう老い先も短いんだし、自分が野生動物の餌になりにアフリカでも行けばいいんだよな」

フジオカは須戸麗花お嬢の底知れぬ闇の過去を垣間見て、身震いを覚えた。
 

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『怨み・ハラスメント』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。