医療の細分化の問題点

総合病院に行けば、内科でも「消化器内科」「呼吸器内科」「循環器内科」「血液内科」「神経内科」というように、さまざまな科に細分化されていると思います。

医療の細分化は特定の病気を深く掘り下げて、診断・治療をする上で大きく貢献してきました。私自身も消化器内科医として、内視鏡で胃がん・食道がん・大腸がんを切除するという専門性の高い仕事を日々行っています。診療科にかかわらず、医療の細分化の恩恵を受けている方が多数いらっしゃると思います。

ただ、医療の細分化も決していいことばかりではありません。私が大学病院で消化器内科の研修医として働いていたとき、胸と腹の間のあたりに痛みを訴えてくる患者さんが救急外来を受診されてきました。そのときの当直の先生は、胸部の専門である循環器内科の先生と、腹部の専門である消化器内科の先生を呼び、診察を依頼しました。

循環器内科の先生は心臓エコー検査を行い、「心臓の動きには問題なく、循環器疾患は否定的です」と言い、消化器内科の先生は腹部エコー検査を行い、「腹部に痛みの原因となる病変はないので、消化器内科の病気の可能性は低いです」といい、痛みでもだえる患者さんの頭上でバトルが始まりました。明らかに家に帰れそうにない患者さんであったのですが、入院後の指示出しや書類などの仕事が増えることもあり、研修医の私の目にはお互いの先生がどちらも入院させたがらず、患者さんを押し付け合っているように見えました。

私は研修医であったので口出しできませんでしたが、「とりあえず、どちらかの科に入院して様子を見てあげればいいのに」と内心思っていました。救急外来で10分以上押し問答していたでしょうか。そんなとき、患者さんがげぼっと吐血(消化器の疾患や損傷によって、口から血を吐くこと)しました。

それを見た循環器内科の先生は、「やはり消化器内科でしょう!」と語気を荒らげて言いました。結局、その患者さんは消化器内科に入院となり、緊急内視鏡検査を行ったところ、大きな胃潰瘍があり、その内部から出血していました。

胃潰瘍が原因で痛みが起こり、出血してしまったのでした。自分は研修医ながら、「医療が細分化しているのも、問題あるな」と思ったのを今でも覚えています。それから月日が流れ、私も消化器内科医として一通りのことができるようになりました。普段は消化器内科医として日常診療を行っていますが、どうしてもどの科にあたるか判断のつきづらい患者さんに遭遇することも少なくありません。

そんなときには研修医の頃の先ほどのエピソードを思い出して、できるだけ自分が診察してあげようと思うようにしていますが、どうしても忙しかったりすると、「その患者さんは消化器内科ではないよね」と言ってしまうこともあります。逆に「この患者は〇〇科ではないから、そちら(消化器内科)で経過観察してください」と言われることもあります。

こんな話を医療関係者ではない知人にしたら、その人は病院でいろいろな科をたらい回しされた経験があり、患者からすれば「何科でもいいから、とにかく助けてください!」って気持ちですよねと言っていました。私は「なるほど、その通りだ!」と思いました。「消化器内科ではない」「循環器内科ではない」「外科ではない」とかは医療者側の都合であって、患者さんはただただ助けてほしいのです。

しかし、専門ではなく知識もないのに重症の他科の患者さんを診て、患者さんが不利益になるのはよくないと思います。そうでなければ寛容な心で医師は、苦痛にさいなまれる患者さんの診療にあたるべきなのでしょう。

また医療の細分化のために、一人の人間として全体をとらえることのできる医師が少なくなったという問題点も出現していると思います。

自分が担当する科のことでしか、その患者さんのことを考えない医師も多数います。

例えば、こんなエピソードがあります。