日本の自然と風景

今日の、日本の森林経営の問題の1つは、単年度の損益計算書ベースでの経営(それも穴だらけの)に陥っているということです。

どんなに損益計算書(フロー)を眺めてみても、改善策は浮かばないでしょう。森林資源はストックとしてみる必要があるのです。山林の荒廃も、花粉症の問題も、生態系保全の問題もストックの質に関わる問題です。

日本における森林経営の問題のもう1つは、森林の持つ多面的な価値と機能が評価されていないという問題です。

例えば丹波山村の場合、村の面積の7割が東京都に買い上げられ、水道水源林に指定されることで村民の生業の場となるべき生存圏は大きく圧迫されています。本来、水源涵養とヤマの利用は両立できるはずなのですが、森林保有者の事業目的以外は認められない単一機能の森林となっているのです。

私が考える、森林ストック経営の基礎となるバランスシートの概要案を示します。(図1)

図1:今までとは違う、経営の視点からの、森林資源の把握手法

森林ストックの多面性も併せて明らかにできるものにしていきたいと考えています。

森林経営の場合、経営主体は公共・民間にまたがり、全国に広がっています。したがって森林バランスシートは、単独の事業主体だけでは作れません。複数の主体が緩やかにコンソーシアムとなって、従来からの森林事業の損益計算書と、バランスシートを連動させ決算を連結していく必要があります。

その主体となるのが、私がイメージする森林銀行の理想像です。

日本を動かすお金ではない経済の仕組み

石川県は能登半島の輪島の近く七尾市に石崎という集落があり、一時、私は毎年のように訪れていました。相撲の輪島関の出身地というだけあって、かつては相撲が地域で一番人気のあるスポーツだったそうです。

私が訪れた時にも、力自慢の荒々しい気風に満ちた漁師町の佇まいがありました。海岸線に沿って広がる集落のほぼ中央に小ぶりな広場があり、その左右に集落を縦断する幅4mに満たない細い路地が続いています。

能登半島名物の奉燈祭の見物が、毎年ここを訪れていた目的です。能登半島最大の奉燈祭というのが石崎の人たちの自慢で、100人で担ぎ上げる重さ約2トンの巨大な奉燈が7つの地区から合計七基、競うようにこの細い路地を通過します。当然スムーズには通過せず、担ぎ手の熱気が伝わる緊張感が見どころ満載なお祭りです。

石崎奉燈祭  写真提供:石川県観光連盟

奉燈の幅は、路地の幅員とほぼ同じなので、路上からは、奉燈の前か後ろしか見えません。

大きなお祭りであるにも関わらず、観光客が見物できる場所がほとんどないのです。集落の多くの家は、この細い路地に面して客間を設け、座敷で宴会をしながらこのお祭りを楽しむことができるようになっていました。