三十分で家に着いたけど、車から降りられない。

降りたら現実として受け入れないといけないから、色々考えていたら一時間ぐらいたっていた。

玄関の電気を点け、靴を脱いで上がった途端、膝が落ちた。

声を上げ大泣き、誰もいない。

しばらく泣いて……。

「バカみたい!」

「なんで自分がみじめになっているのか!」

「しっかりしなさい」と自分に言い聞かせてしっかり立って、キッチンでビールをグラスになみなみと注ぎ、飲み干した。

徐々に怒りがわいてきて持っているグラスを思わず投げようと手を上げた……が片づけを考えたら後悔しそうで手を下した。

いかに主人を後悔させて別れるかを色々考えた。

後八年で還暦を迎える。人生残り二十年生きると考えて、先立つ物が必要だ。

預金、不動産、ヘソクリを計算したら約三千万円くらいは持って行けると算出できた。

運がいい、預金が趣味だったのが幸いした。

財産分与を細かく考えた。きっと主人は反対しないと思う。「いいよ」一言だけ。

良く短時間でそこまで考えている自分に驚いた。私は打算的だと思っていたが、先の自分の人生設計を立てるとは予想外だ。

生きるために先立つ物の準備ができるのは幸せだ。変な話、主人に感謝。

後は離婚までの流れを考えることだ。家を出るには約一か月は必要。

アパートを探し、家の片づけ、自分の服、アクセサリー等キッチン用品は持っていかないし、特にベッドは見たくもない。

色々考えていたら四時間がたっていた。

「あっ!」その前に息子達に早く話さないといけない……どう話そうかと考えていたら、玄関の開く音がした。主人が帰って来た。急いでベッドに入り寝ているふり。「声をかけるな」と思いながらジッとしていた。

主人は寡黙な人で声をかけないとわかっていた……がかけてほしい。思った通り静かに着替えに立って、ゆっくりとベッドに入った。 

いつものように朝食を作るか、起きないでいようか迷ったがとりあえず朝食の準備をした。出かける前に、

「しばらく、彼女の家で生活してほしい。これからの事を考えたいから」。

彼は返事をしないが多分そうすると思う。

仕事場に「体調不良で一週間有給を取りたい」と連絡。

心の準備と体調調整をしなくては。一番大事な息子達に話さなくてはいけない。

子供達は意外と「お母さんがそれでいいなら反対はしないよ」と言うでしょう。

主人には彼女と再婚してほしい。

一人では生きていけないと思う。家事をしながら、今のハードな仕事は無理だ。

あの瞬間から一日しかたっていないのにそこまで人生設計を立てている私、ある意味凄い。 

夕方主人が帰って来た。もちろん夕飯の準備はしていない。

私はリビングでテレビを見るふり、主人は、

「着替えを取りに来た」と一言だけ。

スーツケースに背広上下、ワイシャツ、下着と詰めている。

これまで友人旅行、出張等も自分で準備したこと一度もない。 

「忘れ物しないでよ」と心でつぶやく私。これでいいのか葛藤中。主人は荷物を持って家を出る時

「すまない。君の思うままに僕は従うから」と。

悔しいけど予想通りの言葉だった。

玄関を出ていく主人が少しかわいそうだが自業自得だ。しょうがない。 

さぁ、これから第三の人生のスタート準備だ。

「待てよ。僕が悪かった。許してほしい。別れたくない!」と言わない主人に腹が立つ。本心はどうなのだろう。イヤ! 関係ないと自分に言い聞かせて、ゆっくりシャワーに入り、ビールを飲んでいると玄関の開く音がした。

「あれ、息子かな。こんな遅い時間に」そしたら、主人だった。