最終的に選ばれたのはMGM契約下の女優、ジーン・ヘイゲンだった。一九二三年にシカゴで生まれたヘイゲンは、十二歳の時一家でインディアナ州に移り住む。

大学で演劇と音楽を専攻した彼女は、卒業後ニューヨークへ向かい、舞台女優を目指した。ブロードウェイを経て一九四九年から映画に出演するようになった彼女は、大きな役に恵まれなかったものの、ジョン・ヒューストンの傑作フィルムノワール「アスファルト・ジャングル」(’50)では、スターリング・ヘイドンの愛人役を演じ注目を浴びている。

スターとして観客が納得するだけの美貌とコメディエンヌとしての可笑しさを併せ持ち、レナ役にはピッタリの女優だった。レイノルズのためのダンスの特訓は四月初めから始まった。

十九歳になったばかりの彼女にダンスを教えるため、キャロル・ヘイニー、ジニー・コイン、アーニー・フラットの三人がコーチとしてついた。アーニー・フラットは「オクラホマ!」の巡回公演や「巴里のアメリカ人」で踊った実績もあるダンサーで、MGMでは多くのダンサーの指導を務め、ジーンに信頼される存在だった。

稽古は午前十時に始まり、一時間の昼食をはさんで午後三時五十分まで続くのが決まりだった。稽古の最終目標はジーンやオコンナーのスピードにレイノルズが付いていけることだった。

そのため三人のコーチはジーンとオコンナーが好んで踊るステップをすべて教え込んだ。ダンスについては素人同然のレイノルズにとって、これはつらい体験だった。

元体操選手で体力には自信のあった彼女だが、稽古が続く内に自信を失っていく。付き添う三人の教師は優しかったが、ジーンだけはそうではなかった。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『踊る大ハリウッド』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。