だが、平成の時代が終わってみると、状況が大きく変わっていた。そもそも正規雇用を基本にした社会の形に、無理な「接ぎ木」をするようにして非正規雇用の範囲を広げてきた。

だから、非正規雇用者の給与と処遇の問題は、政治の場や国民の間でも正面切って堂々と議論された記憶もない。

平成17年(2005)に小泉純一郎氏が総理大臣のとき「郵政民営化」だけを争点にした衆議院解散・総選挙が行われた。

振り返ると、この雇用の問題は「郵政民営化」と同じか、または国民すべてに関わるという意味ではそれ以上に大きな問題だが、国政選挙で大きな争点となったこともない。

国民全体の関心が高まったのは、リーマン・ショック後に職を失った人を支援しようと、平成20年(2008)の年末から翌年始にかけ、NPOが東京の日比谷公園で炊き出しなどを行ったいわゆる「年越し派遣村」くらいではないだろうか。

こうして結局、国民全体が深く考え、そして納得できる新しい雇用体制の形が見えないまま時間が過ぎ、ついに平成の時代が終わってしまった。

現在、雇用者の約三割超が非正規雇用と言われる。また、いまは高校から四年制大学への進学率がおよそ半数を超えている。大学を出ても正規雇用の口の保証はない。

さらに、大学生の約半数が奨学金の貸与を受けている。だから、卒業と同時に数百万円という大きな負債を抱えた状態からスタートする。

私自身も奨学金を借りていたので、こうした負債を抱えて社会人生活を始める心理的負担は大変よくわかる。30代半ばに返済し終えたとき、ようやく本当に学生時代が終わった思いで気持ちが軽くなった。

正規雇用者と非正規雇用者との間に格差があっても、その格差を埋めるような制度が十分にあればよい。

だがそうではない。

そして、仮に自分自身がいまは正規雇用であっても、まわりに非正規雇用の人が多くなれば、自分もいまの立場を失うかもしれないといった恐怖心にさいなまれる。

その結果、日本人全体の気持ちが萎縮、つまりしぼんでしまい、社会全体の雰囲気が暗くなってしまった。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『日本が没落した3つの理由――そして復活への道』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。