2章 これまでの重大事故(フェール)

5.東日本大震災に伴う複合災害

私たちは、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴って発生した津波、原子力発電所の大事故等の典型的な複合災害を経験し、今もその対応に悩み抜いている。

地震の規模はモーメントマグニチュード(Mw)9.0で、発生時点では日本周辺で観測された数値として史上最大であった。震源域は、岩手県沖から茨城県沖まで南北約500㎞、東西約200㎞におよび10万㎢という広範囲であった。最大震度は宮城県栗原市で観測された震度7で、宮城、福島、茨城、栃木の4県36市町村と、仙台市内の1区で震度6強を観測した。

この地震では、波高10m以上、地上遡上高40.1mにも上る巨大津波が発生した地域もあり、東北地方と関東地方の太平洋岸部に壊滅的被害が発生した。巨大津波に加え、地震のゆれや液状化現象、地盤沈下、ダムの決壊などによって北海道南部から東北、関東南部に至る広大な範囲で被害が発生し、各種インフラが寸断した。

警察庁の発表によれば、2018年(平成30年)9月10日の時点で震災による死者は1万5896人、行方不明者は2536人、建物全体の全壊、半壊は併せて40万2704戸となっている。震災発生直後のピーク時において、避難者は40万人以上、停電世帯は800万戸以上、断水世帯は180万戸以上にも及んだ。

政府は、震災による今後の被害額16兆円から25兆円と試算。この額は岩手、宮城、福島の県の合計生産額に匹敵する規模である。世界銀行の集計では、自然災害による経済損失としては史上1位といえる。

なお1995年(平成7年)に起きた阪神・淡路大震災はマグニチュード7.3(モーメントマグニチュードは6.9)、つまり今回の地震は、阪神・淡路大震災のおよそ360倍のエネルギーがあったことになる(マグニチュードの値が1大きくなると、地震エネルギーは32倍になり、0.1大きくなると1.4倍となる)。

そして被害額は、兵庫県一県の県生産額の半分であった。

ちなみに関東大震災は1923年(大正12年)9月1日に発生しているが、マグニチュード8クラスであったと伝えられており、集計によって多少の際はあるが、東京市の死者は約5万9000人であった。

今回の地震がいかに巨大なものであったのかが想像に難くない。ここで福島原子力発電所の大災害を特筆しなければならない。福島第一原子力発電所では、地震から約1時間後に遡上高14~15mの津波に襲われ、全電源が喪失、原子炉冷却ができなくなり、1号炉、2号炉、3号炉の炉心溶融(メルトダウン)が発生し、大量の放射性物質の漏洩を伴う重大な原子力事故を起こした。この事故は国際原子力事象評価尺度、最悪のレベル7でチェルノブイリ事故と同等に位置づけられている。

同原発の立地する福島県浜通りを中心に一帯の福島県民の避難地域が設定された。その他に火力発電所でも損害が出たこともあり東京電力の管轄する関東地方は深刻な電力不足に陥り、震災直後の一時期は日本国内では65年ぶりの計画停電が行われた。

東京電力の発表では地震・津波に襲われた直後の3月12日から31日までの間に、大気中に放出された放射性物質の総量は70京ベクレルで旧ソ連チェルノブイリ原発事故の放出総量の17%に相当するという。主に2号機からの放出があった3月15日には、福島原発の北西地域が著しく汚染された。

一方、海洋への放出は、3月26日から9月30日の期間でヨウ素1.1京ベクレル、セシウムが0.71京ベクレルとなっている。

福島県内の約1800㎢の土地が年間5ミリシーベルト以上の積算線量をもたらす土地になったと推定され、避難区域からの避難者は、2012年8月時点において約15万人に達している。

この事故の収束作業に従事していた中から出た線量100ミリシーベルトを超えて被曝をした作業員は2011年3月から2012年4月までの間だけでも167人に、周辺住民の被害者は2011年3月末までに病院の入院患者のうち、院内、搬送中、避難先などで50人が亡くなっている。

東電によると、福島第一原発では2015年10月現在平均約7000人が働いている。年5ミリシーベルトを超える被曝をした従業員は2014年度に6600人に上り、被曝線量が累積100ミリシーベルトを超えると白血病の恐れがあり発癌リスクも上昇するとも言われている。放射線は長期にわたり影響が残るという一大問題がある(「日本経済新聞」2015年10月20日付より参考)。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『「フェール・セーフ」に学ぶ災害対策論』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。