沢井(さわい)冬子(ふゆこ)は信じて待っている

「おかあさん、サクラ、みつかった。……助けられなかった」

沢井冬子は、娘・明純の声を遠くで聞いた気がした。

「今日、迷った人がみつけてくれたの。さっき、山岳捜索隊で何度も一緒に登ってくれた人から連絡があったの。まだ、警察からは連絡ないけど、間違いないって」

電話を切った後、そのまま座り込んで動けなくなった。願っていた。祈っていた。孫の中でたった一人、認知症の夫・幸三を気遣い、よく来てくれていた。月に一回は幸三を車で外出させてくれて、休みが合う時はケアマネの来る時に来て、意見してくれた。

冬子がすべての趣味から手を引こうとした時、

「おばあちゃん、全部やめるんじゃなくて、一つずつ減らしてみたら? もしかしたら、介護しながらでも続けられるものがあるかもしれないよ」

と言ってくれた。そう言われなかったら、もう何もかもやめていただろう。月に一回でも、何ヶ月かに一回でも、やれることを残しておいた。

それが、心の支えになっている。サクラの助言のおかげだ。まさか八十五にもなって、六十も若い孫に助けられるとは思っていなかった。サクラが、心の支えだったのに。

翌日曜日、上の孫のヒョウゴとイオリが来て、ヘリコプターでサクラを運ぶというので、いつもの鬼塚の駐車場に行ったそうだ。

発見した人に会ったが、個人で捜索した時に、子供達も何度か会ったことがある人だったらしい。

「でもね、会わせてもらえなかったの」

「なんで?」

「白骨化して、家族に見せられないって。家族四人、良典さんもヒョウゴもイオリも、大丈夫だって言ったんだけど、ダメだって」

家族が確認できない。いったい、サクラはどんな姿なのか。

「司法解剖して、DNA鑑定するから、良典さんと私の唾液を提供した。科捜研で調べるんだって。ほんとうに科捜研ていうんだな、って、どうでもいいこと思ったよ」

「どのくらい、かかるの?」

「一週間。私は急にまた仕事休んだから、明日出て、次に結果出た時は本人ならその後、一週間は休まなきゃいけないから、明日また謝罪して、説明する」

「仕事なんてして、大丈夫なの?」

「だって、半年だけの契約で、七月末に契約満了で辞めること決まってるのよ」

あと二週間か。

「それにね、仕事してると、忘れられるんだ」