整形外科領域の骨折でも、すべての患者さんが手術の対象ではないと思います。

例えば、高度認知症でほぼ寝たきりの患者さんが施設で転倒して大きな骨を骨折し、病院に救急搬送されてくることがあります。患者さんは痛みの訴えがないものの、ご家族や施設の方は、骨折の手術をしてもらうつもりで病院に来られます。本当に手術が必要なのでしょうか?

「折れているから治す必要がある」というのは短絡的だと思います。骨が折れているせいで痛みが強いとか、これまで歩けていたのに歩けなくなったという場合は手術せざるを得ないかもしれませんが、症状のない方ならそのままでよいのではないでしょうか。手術をしてしまうことで、術創から感染を起こしてしまったり、肺炎を合併して死亡してしまったりすることもあります。

手塚治虫著の漫画『ブラック・ジャック』の主人公のブラック・ジャックも、恩師の本間丈太郎先生に手術を行いますが、不成功に終わり、本間先生は術中に死亡してしまいます(第3巻25話"ときには真珠のように")。

病院の前でうなだれるブラック・ジャックに対して、おけとなった本間先生が「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね…」と語りかけて肩を叩きます。

天才外科医のブラック・ジャックですら、このようなことがあるのです。手塚先生はきっと、ブラック・ジャックを通じて医療の不確実さを伝えたかったんだと思います。

私はこのシーンがすごく好きです。体にメスを入れる医師は、常に患者さんの体に謙虚に向き合わなければならないことを忘れてはいけないと思います。

ドクターXの外科医・大門未知子の「私、失敗しないので…」はドラマの世界の話です。世界中のどこを探しても、このような発言をする医師はいないと思います(主演の米倉涼子さんは個人的には好きですが…)。

先ほども述べましたが、人間の体は無駄なところがほとんどなく、よくできています。したがって、できるだけあるがままの状態を維持することが重要で、手術を行うにしても必要最小限にすべきです。

どんなに腕のいい名医でも、合併症を起こしたことがない医師はいません。手術の提案があった場合は、その点をよく踏まえて、メリット・デメリットを吟味し、最適の医療を受けていただければと思います。

●開腹手術…お腹を大きく切って、手術を行うこと。昔はこの手術形式がスタンダードであった。外科医によって行われ、術後のキズ跡は大きい。

●腹腔鏡手術…腹腔鏡という外科手術用の内視鏡で行う手術。腹腔鏡を挿入するために、体表に小さな穴を何か所かあけて手術を行う。1990年頃から、外科医により盛んに行われるようになってきた。

●内視鏡手術…胃カメラや大腸カメラなどを用いて、遠隔操作でがんの切除を行う最も低侵襲な手術。体表にはキズを全くつくらない。2000年頃より内科医(消化器内科医)が主に行っている。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『やぶ患者になるな!』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。