出来上がった物語は次のようなものだった。

アメリカ人の元兵士ジェリーは、戦後もパリに残り画家を目指して勉強を続けている。友人には同じアメリカ人でコンサート・ピアニストを目指す「パリで一番ひねた神童」アダムや、彼を通して知り合ったフランス人のクラブ歌手アンリがいる。街角で見かけたジェリーの絵を気に入った大金持ちの女性マイロは、彼のスポンサーになると申し出る。

金に飽かせた強引な言動に反発するジェリーだが、個展を開き、そのためにスタジオも用意するというマイロの計画に次第に乗せられていく。偶然クラブで出会った娘リーズに一目惚れしたジェリーは、積極的に彼女に近づく。初めは敬遠されていたジェリーだが、やがて二人は愛し合うようになる。

だが、リーズには戦争中命を助けられた恩のある婚約者がいた。アンリである。アンリはアメリカに招聘されたのを契機に、リーズと結婚することを決める。彼とリーズの関係を知ったジェリーは身を引く覚悟を決め、マイロと美術学校のパーティーに出かける。パーティーの場で出くわしたジェリーとリーズはつらい別れの言葉を交わすが、アンリはそれを物陰で聞くこととなる。

車で走り去るアンリとリーズ。しかし、ジェリーが物思いにふける間にクラクションが鳴り、戻った車から一人降りたリーズはジェリーのもとに帰る。

主演のジェリーにはアステアとジーンが候補に挙がったが、交響曲を使ったバレエやGIの年齢を考えるとジーンが適役なのははっきりしていた。

相棒のピアニスト、アダム役はガーシュイン音楽の優れた演奏家であり、実生活でもジョージ・ガーシュインの親しい友人であったオスカー・レヴァント以外に考えられなかった。

パトロンとなる女性マイロはニナ・フォッシュに決まった。映画、舞台、テレビで活躍したほか、後に四十年以上にわたり大学で演技からキャスティングまで幅広く教えることになる彼女は、この役に必要な気品や知性を備えていた。

ジーンの相手役となるフランス娘リーズには、当初スタジオ所属のシド・シャリースやヴェラ=エレンの名が挙がった。

しかし、ジーンはもっと若くて純情な生粋のフランス人を起用するよう主張した。一九四八年、彼はパリで若いバレリーナ、レスリー・キャロンを見ていた。パリ近郊の町ブローニュ=ビヤンクールでフランス人の父とアメリカ人の母との間に生まれた彼女は、当時シャンゼリゼ・バレエ団に所属し、ダヴィッド・リシン振付けの「出会い、あるいはオイディプスとスフィンクス」に出演していた。

「信じられないほどの素質にあふれ、動きがとても美しい」と感じたジーンは、終演後楽屋を訪れるが、すでに彼女は帰った後だった。当時十七歳の彼女は母親から幕が下りればすぐに帰宅するよう言いつけられていたのだ。ジーンはリーズ役を決める際、パリで見たこのバレリーナを強く勧めた。

スクリーン・テストを行うためパリへ赴いたジーンは、候補に挙がったレスリー・キャロンと女優のオディール・ヴェルソワをカメラに収めた。フィルムは航空便でハリウッドに送られ、フリードとミネリはリーズ役をキャロンにすることで一致した。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『踊る大ハリウッド』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。