この事例では、会計ソフトが標準ではなく、勘定科目から決めなおしました。法務の領分は次のとおりですが、法務担当者を置く資金的余裕がなかったので、親会社のグループ会社から支援を受けました。

①コーポレートガバナンス(株主総会を最高機関とする取締役会、および指名委員会の運営、会計監査人・内部監査人の監査対応など)

②労働関係法規、就業規則、安全環境衛生、セクハラ防止法、および人事担当法規順守への監視(対・組合、従業員)

③合弁契約、会社法、商取法関係(対・合弁相手)

④民法、商法(対・取引先)

⑤独禁法(対・競合相手)

⑥PL法(対・消費者)

⑦贈収賄防止法、輸出入関連法規、土地収用法、および会計基準・税法の経理への監視(対・政府当局)

工場は、居ぬきで買い取ったので、労働力はレンタル、設備は自己資産とし、工場運営の規定書だけは、既存のものに手を加えました。

この合弁会社運営の最大の難点は、合弁相手のオーナーが、この合弁会社設立の段階で息子に代を譲ったことにありました。その息子が、一癖ある人物で、契約書すら読まずに口出ししてくるのには、さすがに閉口しました。

こうして運営を始めましたが、経理が出してくる会計数値の検証のため、最初の3ヵ月は、毎月実地棚卸と材料払い出し伝票の確認をしました。

そうすることで、経理のシステムと規定事項の有効性を確認し、ようやく会計報告を信用することにしました。通常は嫌がられるのですが、設立1年を経ずに監査を入れ、気づかれていないリスクを明確化し、補正した仕組みによる管理を始めました。

前述した息子が、短期借入を許可しないとか、あるいは権利もないことに口を出すなど、コーポレートガバナンスは大変でしたが、何とか財務取締役の善管注意義務を果たしました。

合弁の解消へと進める

当初から、数年後のCall OptionとPut Optionの可能性を視野に入れていました。そのうえで経過観察していましたが、売上に対する直接材料費率が高く、よって資金も生まれず、これは長続きしないと半年経過時に判断しました。

その直接材料費は、ほとんどが合弁相手からの購入部品で、それは事業買収時に決められた事項でした。

直接材料費を改善しないかぎり、2年後には債務超過になることに気づき、本社に相手側株式の買い取り、本社グループ会社への吸収合併、工場の移転を申し入れました。新規に会社をやり直すと買収金額の2倍3倍の金がかかると試算したうえでの申し入れでした。

データに基づいた私の主張が通り、合弁半年で、吸収合併へと動き出しました。儲からない収益構造の会社は、早急に手を打たなくてはなりません。

吸収合併する段階では、製造する機種が変わり、合弁相手への部品供給依存が大幅に下がる手が打てるので、ここで手を切れば、その事業は黒字になるというスキームです。

結果として、残り49%の株式購入が成立しました。次はグループ会社への吸収合併の手続きです。まず本社所在地を存続会社、消滅会社とも全く同じデリーの住所に変更し、デリー高裁で吸収合併の判決を獲得しました。

続いて工場の物理的移動、そして年金等労基法、税務他の一切の清算処理を完了させ、この合弁会社は跡形もなく消え去りました。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。