一九五〇年二月に撮影は終了するが、ウォルターズはガーランドにもう一つ印象的なナンバーが必要だと考えた。そこで歌いたい曲を聞いた上で、ウォルターズ自ら振付けたのが“ゲット・ハッピー”だった。

ガーランドはカリフォルニアのリゾート地、カーメルでホリスティック医学の治療者の指導を仰ぎながら療養し、三週間の間に十一㎏の減量に成功した。三月に撮影された“ゲット・ハッピー”はタキシードのジャケットに黒いストッキング、中折れ帽を目深にかぶったいでたちで男性ダンサーを従えて歌い踊り、MGM時代の彼女を代表するナンバーとなった。

ただし少し気になることがある。“ゲット・ハッピー”はそもそもストーリーとの関連もなく、ショーの演目の一つとしてガーランドの芸を見せるために挿入されたナンバーに過ぎない。

そういう意味では古い時代のナンバーの使われ方であり、好ましいとは言えない。しかし時代に先駆けた斬新でセクシーな演出に、ガーランドの歌唱力、スターとしての貫禄が一体となり、批評家や観客から絶賛された。

このようにプロダクション・ナンバーには、それ自体が優れていれば作品自体と有機的に連携していなくとも「許される」側面がある。楽しさ、素晴らしさを表現出来れば、一種の「独立性」を保持することになる。逆に言えば、いかにストーリーと結びついていても、ナンバーの出来次第では作品の中での役割を十分果たしていないことになる。

これまでナンバーとストーリーの有機的な関連を新時代のミュージカルの方法論として是としてきた。

しかし、ミュージカルは娯楽である。娯楽には楽しさ、美しさによって観客の目を楽しませる使命がある。

その意味で“ゲット・ハッピー”はストーリーとの関連はないものの、ミュージカル本来の使命を担うことによって、「サマー・ストック」の中に存在する意味を持った。さらに一九五〇年代までのミュージカル映画には、それを見る観客も含めて、良い意味でのゆるさがあった。

ナンバーをそれ自体の出来の良さで受け入れる許容度があった。“ゲット・ハッピー”はその振付けのシャープさを武器に、スタジオ黄金期のミュージカル映画のゆるさの中で輝いた。

一九五〇年八月に公開された「サマー・ストック」は評判も良く興行収入も悪くなかったが、ガーランドの不調で撮影が長引いたため必要経費が膨らみ、最終的には赤字になった。同じ年の五月から「恋愛準決勝戦」のリハーサルに入った彼女だが、欠勤や遅刻のため六月に降板させられてしまう。

その二日後に自殺未遂でマスコミを賑わせた彼女は、九月になりついにMGMから契約解除を言い渡される。映画初出演作でガーランドに助けられたジーンはいつの間にか支え役にまわり、「サマー・ストック」共演を最後に彼女がMGMから去るのを見送ることとなった。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『踊る大ハリウッド』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。