私たちは場所を変え、奥の公園のベンチに座り直した。彼らは酒以外にWeedまですでに用意をしていた。チャビがハッパを巻いている間、私たちは早速、酒の蓋を開け飲み始める。アルコールのせいで身体が火照り、冷たい風が今度はとても気持ちよく感じられる。

「できたぜ」

そう言って、チャビがWeedを差し出した。

ひとけのない夜の公園。彼らはハイになりながらも、まわりに細心の注意を払う。

「やめろ。隠せ」

ときに、互いにサインを送り合う。Hoodには私服警官が非常に多いのだ。

「日本にもこんなにポリ公って多い?」

チャビはもうウンザリとばかりにそう私に尋ねる。

「日本はこことは全然違うよ。もちろんパトロールはしてるけど、家の近所で四六時中監視されてるってことはないな」

「……だろうな」

しだいに、ドレッドが饒舌になる。スキンヘッドの表情が柔らかくなり、チャビとチョコレートに笑顔が増える。これが酒やハッパの効力なのかと思うと寂しい。喜怒哀楽を素直に表現し、物事に感動できることが、いかに幸せなことであるのか、私は改めて実感するのだ。

9.11事件について、ドレッド以外、誰も興味を示さなかったように見えた。しかし、だからといって、彼らが人の痛みを理解できない人間、他人に共感できない人間ということではない。

もしかしたら、無知と想像力の乏しさから、この事件をどのように捉えたらいいのかわからなかったのかもしれない。

経済的に貧しくても、好奇心旺盛で心が豊かな人もいるし、どんなに経済的に豊かで、学歴があって、社会的に成功していても、私利私欲にまみれ、心が貧しい人もいる。9.11事件は、歴史や政治経済、教育、人種、民族、宗教など、さまざまな問題が複雑に絡み合って引き起こされた。ワールド・トレード・センター(WTC)はアメリカ経済の中心地であり、富の象徴だった。

ニューヨークの誇りがあのような形で攻撃されてしまった意味を考えれば考えるほど、問題の根深さを感じざるを得ない。また、犠牲になった方々や、その家族や友人の気持ちを思うとやり切れない。

もし、自分の身に同じことが起きたらとその状況を想像するだけで、心が苦しく痛むのだ。事件を心で受け止め、他人の気持ちに思いを馳せる。そういった感受性や想像力というのは、人と人との関わりの中で、心を通わせ合いながら育れていくものではないだろうか。

自分のまわりで何が起こっているのか、世界で何が起こっているのか知ろうとしたり、人の気持ちに想像を巡らせたり、いろいろ学んで視野を広げていける環境にあることは、実はとても恵まれていることなのかもしれない。

毎日、自分が生きることに一生懸命で、その日その日を刹那的に生きていれば、他人のことを考える心の余裕などなくなってしまう。

日頃の不安やストレスから一瞬でも解き放たれたい。彼らは心の痛みを和らげるかのようにWeedを吸い、ハイになる。私はふと思ったのである。果たして、彼らの心の叫びには誰が耳を傾けているのだろうか。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『HOOD 私たちの居場所 音と言葉の中にあるアイデンティティ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。