第一章 愛する者へ 2

――沈黙の臓器なら、ずっと沈黙していろよ――

痛みに耐えられなくなり病院で検査を受けたときには、すでに余命宣告がなされる段階だった。

若葉はまだ小学六年生になったばかりだった。

すぐに新は若葉が寝たあとに妻の霞に打ち明けた。

リビングのテーブルに顔を伏せて泣きじゃくる霞に対して、謝るしかなかった。

同じ病名で検索すると、闘病を記録したブログが何件かあったが、新と同じ症状まで進んでいたのはすべて、

「これまで読んでいただいてありがとうございます。〇〇は〇日前に天国へ旅立ちました」

と家族からの報告で終わっていた。

――家族との思い出をできる限り作っておきたい――

霞と話し合い、若葉に告白することにした。霞に打ち明けてから十日が経っていた。

二人の深刻な表情から冗談を言っているのではないことを理解した若葉は、涙があふれ出る前に走って自分の部屋に行き、ドアを閉めた。

若葉が泣いているのはドアの外からでも分かった。

「ごめんね……ごめんね……」

新も泣きながらドアの外から謝り続けた。

リビングで霞が泣いているのも聞こえてきた。

――死にたくない――

――運命を受け入れよう――

振り子のように数日間隔で揺れ動いたが、しだいに片方に揺れている時間が多くなっていった。若葉の寝顔を見るときは、反対の方向に強く傾いて動かなかった。

いつものように帰宅前に郵便受を開けると、夕刊といっしょに数枚のチラシが入っていた。

普段なら何も見ずにそのまま捨てていたのに、たまたまそこに書かれていた言葉が目に入った。

大切な人に あなたの死後に メッセージを届けます

玄関から書斎に直行し、ドアを閉め、そのチラシを読んだ。

さっそく翌日の昼休みにチラシに書かれていた連絡先に電話した。

「はい、『アフターメッセージ』です」

電話に出たのは、声が高く早口の男だった。

「チラシを見て電話をしたのですが」

「ありがとうございます。では、詳しいことを説明しますので、ご都合のよい日時にこちらまでお越しいただきたいのですが」

「早くていつが空いていますか?」

「本日の午後六時でしたら空いておりますが」

「その時間でお願いします」

「場所は分かりますか?」

「仕事でよく行く場所の近くなのでだいじょうぶです」

「お名前は?」

「鶴島です」

「ツルシマさんですね、どのような漢字を書きますか?」

「鳥の鶴に、島国の島です」

電話の向こうでマジックで書く音がした。

「では、本日の午後六時にお待ちしております」

その日に予約ができたことは、新の気持ちを軽くさせた。

今日明日の状態ではなかったが、やることは早いうちにやっておきたかった。

「帰りは八時を過ぎるけど、ご飯はうちで食べるから」

電話で霞に伝えた。
 

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アフターメッセージ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。