「あなたはなぜタクシードライバーに?」

「私ですか? 実は私、介護の仕事を7年やっていたんです。いろんな方とお話したり、送迎の仕事をしたりしていくうちに、介護タクシーや福祉タクシーをやりたいなと思いまして」

「それは良いことですね。私みたいな立場の人たちからすると、凄くありがたいですよ」

「やはり、お出掛けしたくても なかなか外出できない方も多いのが現状ですよね。『昔はよく出掛けたのに、いまはもう無理ね…』とおっしゃる方も多いです。この業界はいろんなルールが、場所場所でありますから、勉強のためにいまは、タクシーで頑張っているんです。裏道も覚えたいですし」

「いやぁ! 素晴らしいよ。需要は間違いなくあるはずだから、頑張ってほしいな」

「ありがとうございます。何年かかるか(?)わかりませんけど、微力ながら皆様のお役に立てれば嬉しいですね」

その後、お客様はいろんな話をされた。

亡くなられたお母様のこと。

病気のこと。

いまの生活のこと。

私が介護職をしていたからか(?)たくさん話してくださった。

お客様のご自宅前に到着。

渋滞もあったが、わりと長距離で30分くらいかかった。

お客様は精算をあえて多めに出され、「お釣りはいらない」とおっしゃる。

申しわけなく思ったが、ありがたく頂戴することにした。

お客様は降りながら、

「いやぁー、いろいろ話せてよかった。話の返事も的確だし、あなたみたいな人のタクシーにいつも乗りたいよ。私は和田と申します。お名前伺えますか?」

「一森と申します。名刺、よろしかったらどうぞ。またぜひ、ご乗車くださいませ。喜んでお伺いいたします」

トランクから車椅子を下ろされる。

ご自身でやりたい方なのはわかっていたので、あえて手は出さず、転倒したときに即座に支えられるように、お客様の後ろで見守る。

「自分でできるうちは、なるべく自分の力でやりたいんだ。昔から力はあってね。医者はダメだと言うができるときは自分でやりたいと思っている」

「その心掛けは、素晴らしいと思います。でも、ご無理はなさらないでくださいね。お手伝いはいつでもします。そのときは遠慮なくお声掛けくださいませ。慌てずご自分のペースでどうぞ」

道幅は広く、駐停車も可能。

お客様のご自宅(玄関)に極力近い場所に停車できた。他の車の通行時にも気を配る。

降車後……。

電動車椅子でコンパクトに折り畳めるタイプ。初めて見るタイプの車椅子。

フル充電し、どのくらい稼働するのか、畳み方なども教えてくださり、私もとても勉強になった。

お客様は再び、車椅子に乗られ、笑顔で帰られる。

どうか、こんなふうに頑張って生きている障害のある方や介護が必要な方々の邪魔をしないでほしい。

「手伝う」まででなくとも、「優しい目」で見守ってほしい。

人はいつ、自分もそうなるのかわからない。明日は我が身なのかもしれない。

もっと周りの人たちに優しくなれる世の中であってほしい。自分本位ではない、明るい社会に。そう強く感じた。

私の修行の道のりは長い……。

今年もさまざまな方をお乗せし、社会勉強をしていく。

そして技術的にも、接遇も、お客様が不快に感じないタクシードライバーを目指す。まずは、お一人、お一人に丁寧な対応をしていこう。

 
※本記事は、2021年1月刊行の書籍『女タクシー日記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。