二〇一八年六月二十五日(月)事故の前日

「ただいま」

明純が家に帰ると、三男のサクラが夕食を作って迎えてくれた。今日、サクラは緑が森に登って帰ってきていた。サクラの趣味は登山だ。三年前から登り始めた。子供の頃はサッカー漬けだったが、今の仕事はシフト制で決まった曜日が休みではない。体を動かしたいと思ってもサークルなどに参加するのは難しい。仕事を始めてからサクラのたどり着いた答えが山だったのだ。

「今日、餃子じゃないの?」

帰りが遅くいつも二十一時を過ぎる明純は、最初サクラが夕食を作ってくれると感謝していたが、慣れてくるといつのまにか注文するようになっていた。

「サクラの羽根つき餃子、食べたかったなぁ」

「なんだよ、先に言っとけよ」 

サクラは、学生時代に餃子屋でアルバイトをしていたので、餃子はきれいな羽根つき餃子を焼く。料理下手の明純は、不器用でうまくできない。

「明日、焼いておくよ」

「やった! 明日も仕事遅いんだ」

「俺は朝早いから」

「起きられないと思う」

「仕事遅番だろ。いいよ」

サクラはさっさと食べてしまい二階にあがった。

「あぁ、明日帰りに、渋国村の店に寄ってくるよ」

二階から声が聞こえた。サクラの幼稚園の同級生の母親がやっている、ご当地料理の店のことだ。

「小料理空豆ね」

方向音痴の明純には、なぜ渋国村の『小料理空豆』に寄るのか、実はわかっていない。なんでだろう、と思いつつ、この会話が最後の会話となろうとは知る由もなかった。