しかし、鎮静は活動性も落としてしまい、活動性が落ちると身体機能も落ち、虚弱へとつながり、ひいては寿命の短縮へとつながります。それはできれば避けたい。

非薬物療法と言えば聞こえはいいですが、職員に「うまくかわして」というのが、春爺さんのケースでは最善でした。職員と認知症高齢者の性的脱抑制や性衝動について一緒に考え、薬物療法のリスクを理解してもらいました。

職員は私にプンプンしながらも春爺さんの気持ちを上手にかわして、優しく接してくれました。セクハラ、性的脱抑制といっても内容は個々人によって様々に異なり、傾向と対策も異なります。春爺さんの場合は一にも二にも人肌恋し、女性恋しでした。

幸いにも肉体的要求はしつこくなく、タッチは許さねど、「今日は遅いから寝ましょう」と床につかせて、トントンと布団の上から優しくさするだけで落ち着かれることがほとんどでした。

認知症になると意識が逆行し、若返ることが知られています。妻を求めて寂しくなるのもわかる気がします。人肌の温もりはいくつになったって心温まるものでしょう?

時にはタクテールケアやユマニチュードに紹介されているような軽いタッチング、マッサージで「お休みなさい」と寝かし付けることもとても有効でした。

このような性的脱抑制を介護する者への気配り、心のケアも大事です。

さらに、入居者さんといえどもセクハラを放置しないことが職員の雇用を守る上で重要です。入居者さんの退去を恐れ、セクハラを放置しておくと介護職員の尊厳を踏みにじってしまうことになります。

私は介護士が上手にかわしつつも暖かさを保つ介護をしてくれることに感謝し、春爺さんに代わって、ちょくちょく謝りました。ちなみにおばあちゃんの性的脱抑制というのもあります。

男性ほど直接的なことはなく、問題になることは少ないですが、あからさまに男性介護者の介護ならニコニコして受け入れ、同性介護なら拒否する事例は多々あります。

そんな時はまるで恋人に介護されているかのようにいい表情を浮かべます。

高齢になったって、人間は死ぬまで男は男、女は女を残します。高次脳の機能低下によって抑制が外れてしまうと、性の本能的な面が前面に出てしまう、それは自然のことなんです。

そんな特性を理解した上で、お触りを上手くかわしつつ、愛情を注いで、適切な人の手のぬくもりを伝える介護が理想ですね。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『安らぎのある終の住処づくりをめざして』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。