その人は、昔は大庄家の家で豊かだったが農地改革のせいかなにかで貧乏になり、少し気が変になったという噂があり、一人暮らしで周りから疎まれている感じでした。

また、着ている服もみすぼらしく、見るからに生活に困っているという感じでした。

しかし、この人が訪ねてくると父は決まって、「なっちゃん、よう来たね」と言って食事をごちそうしていました。

私は子供心に父のそんな対応がとてもいやでした。なんでそんな人を家に入れるんだろうとか、そんなことするからまた来るんだと思っていました。

しかし、今はそんな自分にはできないことをしていた父を誇りに思いますし、それだけ父は根っから優しかったのだと思います。

またさらに、仏縁に出会って気づいたことですが、父にはお布施の心があったのだと思います。

そんな父でしたから、勉強以外ではあまり怒られたことがありませんでした。それでもやはり、父はこわかったです。

すでに書いたとおり、父は森林組合に勤めて組合長も20年以上務め、山を愛しています。年齢的にもう車も危ないので運転免許を返納させたいのですが、山に行けないと可哀想なので、大丈夫かなと思いながら忠告だけはしています。

父のことでびっくりしたことと、ありがたいなと思ったことがあったのは、私が高3の時です。

進学の三者面談があると伝えたら、父に

「お前、もう3年か。まだ1年だと思った」

と言われ、私のことは何も気にしていないなあと少しショックでした。

しかし、その三者面談で、今の成績では希望のところは無理だと先生から言われた時、父は「息子の人生なので、息子の好きなようにさせます」と言ってくれました。

その甘さゆえ結局は3浪してしまいましたが、父のこの言葉は本当にうれしく思いました。また、私の息子たちや娘にもそう言ってやりたい、言える立場にならなければ、と考えてきました。

私はタバコを吸ったことはありませんが、これに関しては父が反面教師です。

父は以前はタバコをずいぶん吸っていて、車の中で吸われるのが一番いやだったこともあり、私自身はタバコを吸うことはありませんでした。

※本記事は、2017年11月刊行の書籍『日本のこれからをつくる本』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。