ある水泳授業の一場面から──『教育哲学会発表論文』より

夏休みのプール指導で7月の最終日。1年生は、S男、N男とK子、それに2、3年生の男子4人が参加していた。開始前、K子が「次のプール教室、欠席します」と言いに来る。「わかりました。それなら、今日、距離を稼いでおかなければな!」と告げる。「次、欠席」という言葉に強く反応してしまったからか、変な視線になってしまったかもしれない。

ウォーミングアップから慣らしの泳ぎ、そして、タイム計測といつものように流れる。計測を終え、2年生のR男に、「(100m自由形)歴代4位の記録が出たな!」と声を掛ける。「本当ですか!」と嬉しそうに応える。するとS男が近寄ってきて、「僕はどうでしたか?」と聞いてくる。「歴代記録にはほど遠い」という気持ちが働いたからか、「うん、まぁ、良かったよ」とぞんざいに答え、管理室へと逃げ込むように入る。

記録を個人カードに記入しながら、「今のS男に対する対応はなかったよな。何か声を掛けてフォローした方がいいかな……」と頭の中を駆けめぐり、惑っていた。

休憩の間、N男と2・3年生男子が一塊になってじゃれ合うように話をしている中、管理室の少し前で、K子が完全に私に背中を向けるような姿勢で、うずくまるように体操座りをしている。

5mほど距離をとって、S男だけが男子の輪には入らず、明らかにK子を意識するように横を向いて座っている。何とも言えない沈黙が流れており、それに耐えかね、K子に、「100m泳いだの、初めてか?」とぎこちなく声を掛けると、背中を向けたまま「はい」とだけ応える。何とも言えない不自然な空気が流れる。S男にも声を掛けようかと一瞬思うが、それをせずに、管理室に閉じ籠もる。少しして、「それじゃ、後半、泳ぎ込みな」とみんなに声を掛け、40分(+10分)間泳を始める。

この日はことのほかS男に気合いが入っていて、1500mを泳ぎ切る。K子にも、40分を終えたところで、「次休むんだから、もう10分、頑張って泳いどこな」と声を掛けると、渋々といった感じではあったが泳ぎ続けて、初めての1km超えとなる1100mを泳ぎ切った。

帰り際、S男に、「初めての1500mやな! よう泳いだな」と声を掛けると、嬉しそうに「はい!」と応え、「ありがとうございました!」と元気よく挨拶して帰って行った。K子は疲れ切り、「声を掛けてくれるな」といった様子でトボトボと歩いていったので、そのまま声を掛けずにおいた。