そこで、「上司経由で伝わるようにしてみたらどうだろう」と考えてみました。「それなら気まずさも感じないし、ひょっとするとできるかも」――ということで、上司と話をする際にさりげなく、同僚のことをほめてみたのです。

「あの同僚、ああ見えて、例の件に関しては、結構しっかりとやっていますね」

「へえ、そう思う?」

「そうですね、最近気がついたんですが、本当にそう思いますよ」

「本人が聞いたら、きっと喜ぶと思うよ。人知れず、コツコツとやっているからね」

「そうだといいですね」

そんな会話を上司としてから間もなくです。その同僚と社内ですれ違った際に、本人が見せたあの満面の笑みを、私は今でも忘れることができません。

それまで見たこともなかったので、本当にびっくりしました。おそらく、「ほめ言葉」が上司経由で本人に伝わったのでしょう。

その後は、実に穏やかな関係へと変化したのですから、効果てきめんでした。本質的には相容あいいれないので、相性が良くなることは決してありませんでした。

しかし、日々の仕事をする上では大きな前進です。とにかく、毎日顔を合わせて、時には差しでやりとりしなければならないので、表向きとはいえ、「和やかな人間関係」が構築できたのは、精神的にもとても「プラス」に作用しました。

この実例が成功した大きな要因は、「直接」ほめるのではなく、上司経由で「間接的」にほめたことにあります。

「人伝いで届くほめ言葉」は、直接ほめるよりはるかに大きなインパクトをもって伝わります。心理学者である渋谷昌三氏の著書が、その効果を裏づけてくれます。

「心理学には、直接ほめられるよりも、第三者を通してほめられるほうが『真実味』を感じ、その人にとってはより嬉しく感じられる――とする報告もあります。

これは会社でも使えます。

当人のいないところでほめる――なにかバカらしい感じがするかもしれませんが、ぜひ実践してみてください。当人の耳に届くまで少々時間がかかりますが、高い効果を見込めます。どんな人間関係でも活用できるのが、この『陰ぼめ』です。大いに活用してもらいたいものです」(『人の2倍ほめる本』渋谷昌三著、新講社ワイド新書、37〜38頁)

渋谷氏は、第三者を通じてほめることを、「陰ぼめ」と呼んでいます。

実際に期待通りの効果を体感すると、「これは使える」と確信するに至ります。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。