上司は往々にして、「この仕事には、社運がかかっている。失敗は決して許されない!」などと発破をかけますが、大号令の裏には、「失敗でもすると、自分の出世に影響してしまう……」といった自己防衛的な心理が、無意識のうちに働いているものです。

仮に、社運がかかっているとしたら、責任は、もっと上の地位にいる「偉いさん」にあるはずです。従って、部下は、いつもと変わらず整々粛々と、指示された業務に取り組めばいいのです。仕事が終わった後は、上司にぶん投げて「業務終了」です。

「もっといいプランがあったら上に提案して、会社や部門の業績に貢献したいんです」という、前向きな社員もいるかと思います。とても大切な姿勢だと思います。その気持ちがあると、個人としてのスキルアップにつながりますし、キャリアの構築にも大いにプラスになります。

しかし、ひとつだけ注意しなければならないことがあります。

それは、「自分のアイデアを提案する時は、相性の良い上司に対してのみ行う」ことです。

相性の良い上司であれば、その話を前向きに聞いてくれるかもしれません。また、積極的な姿勢も評価してもらえるでしょう。場合によっては、アイデアを採用してくれるかもしれません。

ところが、もし提案した上司が相性の悪い上司だったら、どうなるでしょう。「生意気なやつだ。気の利いたアピールをして、目立とうとしたつもりかもしれないが、その手には乗らないぞ」などと思われて、かえって心証を悪くしてしまいます。

どんなに素晴らしい提案であったとしても、手柄を部下に持っていかれるのはしゃくです。当然、却下されておしまいでしょう。いや、それで終わればまだいいほうです。

ずる賢い上司であれば、そのプランをちゃっかり借用して、自分の成果としてしまうかもしれません。その場合、部下は利用されただけでなく、大した評価もされず、「泣き寝入り」することになります。

このケースは、どのように対処したらいいのでしょうか。間違いないのは、「相性の悪い上司には、余計な提案はしない」ことです。

その上で、自分なりのプランは別途きちっと練っておき、チャンスが訪れるまで、胸の内にそっとしまっておくのです。

自らアイデアを考えて企画するという行為は、決して無駄にはならないので、是非実行するべきです。実務を通して検証してみるのも悪くないでしょう。更に良いプランが浮かんでくるかもしれません。

自分のアイデアを積極的に提案するのは、相性の良い上司に変わった時です。「それでは時すでに遅し、となってしまうのでは?」と危惧する方もいるかもしれませんが、大丈夫です。

仮にアイデアがそのタイミングで実行されても、成功する保証はどこにもありません。下手をすると、責任の一端を担わされることにもなりかねません。

状況は、刻々と変化します。独自のプランを基本として持ってさえいれば、応用したアイデアが活用できる場面は、その後いくらでも訪れます。

それくらいの「気持ちの余裕」と、「したたかさ」があってもいいのかもしれません。

相性の良い上司であれば、むしろ、提案を望んでいる場合もあるでしょう。上司が直接言葉にしなくても、相性の良い部下に対して、期待していることでもあります。

また、その期待は先に述べた「上司から言われたことだけ」の中に含まれる、と解釈することもできます。

従って、相性の良い上司に巡り合えた時が、「チャンス」となるのです。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。