図書館の休館日

あっ、そうだった。ここは桜図書館だった。桜の樹々がたくさんあるから桜のソフトクリームが名物だったのを思い出した。

カフェで二、三人が並んでいる光景は当たり前で、ここに来たらみんな桜のソフトクリームを食べて帰ろうと言うほど小さな町の名物である事を、アッキーは忘れていた。おもむろに、ひまりにちょっと待っててと言うとカフェの入口に小走りに急いだ。前にお客さんが二人いた。アッキーは自分のお財布を開けるとう~んと心の中でうなった。二つ買えるおこづかいは、入っていなかった。それでもアッキーはちっとも悲しくなかった。ひまりが喜んで美味しそうに食べてくれたら、アッキーは充分満足だった。ひまりが抹茶ソフトクリームが大好きなのは、もうすでに知っている。

ひまりの嬉しそうな顔を頭に描きながら順番を待った。

「桜のソフトクリームをひとつ、テイクアウトでお願いします」

カフェに入って食べる人もいる。カフェでミートソーススパゲッティや、ピザを食べたあとに名物の桜のソフトクリームを食べて帰るお客さんがたくさんいた。アッキーは桜のソフトクリームを手に取るとひまりの席に急いだ。すると、あんなに賑やかにお喋りしていたおばちゃま達は消えていた。ひまりは隣りの席にアッキーの鞄を置いて少しだけ不安げで、そして疲れているのか背もたれに背中をうずめて待っていた。

「お・ま・た・せ」

と言いながらアッキーはひまりの頭の上に乗せておどけて見せた。二つ買えなかった男の、まだ少年ではあっても恥ずかしさと悔しさだった。アッキーはひまりにひとつ買ってきたのだからアッキーの分はない。遠慮して食べてくれないか、それとも、ひまりはお財布をだすのか、どきどき、ばくばくとアッキーは心臓の音がなっていた。すると、ひまりはさっきまでの疲れた暗い表情から花火のように、ぱっと一瞬に変わった。とても嬉しそうに、

「ありがとう。一度ここの桜のソフトクリーム食べて、みたかったんだ。一緒に食べよ」

と、言うではないか、一緒に? 桜のソフトクリームを一緒に食べるのか? それって、もしかしたら、もしかしたら、えっ~~、間接、間接キスってことだよね、え~いいのか~?

アッキーの異様なまでの驚きに気付かないで、ピンク色した冷たく甘いソフトクリームをひまりは三口ほど舐めると、はい、と桜のソフトクリームをアッキーの顔に近づけた。

「ありがとう」

「とっても美味しいよ、桜の花びらの塩づけが細かく刻んで入っているみたい。甘いクリームとちょっとしょっぱい花びらがすごいマッチしてるよ、早く食べないと溶けちゃうよ、ほらほら」

ほらほら、なんて言われてもこれはアッキーにとって、人生初の衝撃的な出来事になったのだった。