実際に起こったのは1970年代終わりのハイパーインフレーションと言えそうな事態だった。そして資産バブルが膨らみ、破裂するという事態が、ラテンアメリカの債務(1985)、アメリカ株式(1987)、メキシコペソ(1994)、アジア危機(1997)、ロシアの債務とデリバティブ(1998)、ドットコム株式(2000)、住宅ローン(2007)そして再びデリバティブ(2008)と次々に起こった。そのうちの2つ、1998年と2008年のバブル破裂では世界の資本市場が完全な崩壊の寸前まで行ったのだった。

もし自由貿易、資本市場開放それに為替の自由変動制が歴史的に見て欠陥のある考えなら、なぜダボスに集まるエリート達はそれを容認するのだろうか? その答えは、これらの理論はエリート達の隠された課題の隠れ蓑になっているからだ。その課題とはアメリカの国益を犠牲にして世界経済を成長させるということであり、世界におけるアメリカの力を削ぎ落とし、新興国、特に中国の力を高めようとしているのだ。

アメリカは歴史的に自国産業を高い関税で保護して栄えてきた。

アレキサンダー・ハミルトンの赤子製造業のための計画から、ヘンリー・クレイのアメリカ計画まで、アメリカは常に自国の産業を守り、アメリカ人に仕事を作り出すことで知られていた。トランプはアメリカの伝統に戻ろうとしている。トランプは大統領就任の1年目である2017年は関税をかけることを自制した。これは国家安全保障アドバイザーのH・R・マクマスター、国務長官のレックス・ティラーソンそれに防衛長官のジェームズ・マティスをメンバーとする国家安全保障チームのアドバイスのためだった。

国家安全保障チームはトランプ大統領にアメリカは北朝鮮との爆撃を伴う戦争を避けるためには中国の協力を必要としているので、中国とは貿易戦争はしないよう説得したのだ。しかし、中国は北朝鮮に圧力をかけるためにすべきことをしなかった。信頼できる諜報データによると中国は国連による制裁を逃れるため、北朝鮮のごまかしに荷担していることが判明した。更に傷口に塩をすり込むように中国はアメリカとの貿易での黒字幅を2,750億ドルとかつてない金額まで拡大させた。

北朝鮮に対する中国の協力が得られないことが明らかになったため、トランプは選挙キャンペーン初期の2015年に主張していた政策で中国に対抗するのに問題なしと判断した。その結果、2015年からトランプが計画していた貿易戦争は2018年に全面的に展開された。

この新しい貿易戦争の最中、CFIUSは有効な武器として表舞台に戻ってきた。2018年1月18日ロイター通信によると、CFIUSは非上場の中国コングロマリットHNAによるアメリカ企業の買収につきHNAがその株主の本当の実態に関する情報を提供しない限り、承認しないと決定した。HNAはそれ以前にヒルトンホテルとドイツの大企業ドイツ銀行の重要な持ち分を買収していた。HNAはその後、その発行済み株式の半分以上は2つのチャリティ財団により所有されていて、それぞれ中国とアメリカの財団であると開示した。

しかし、これらの財団の受益者でかつ管理している集団の内容は不明なままである。

その後、2018年3月12日にCFIUSによる最も攻撃的な運用の1つと言えそうなケースが起こり、ホワイトハウスがシンガポールのブロードコムによるアメリカ半導体大企業クアルコムに対する敵対的1,170億ドルの買収にストップをかけた。

この行為は2つの点で通常のことだった。これは敵対的買収であったことから、CFIUSが考慮すべき、売り手と買い手との間で、原則として契約がないため、条件緩和のために活動する余地が最初からない。

そしてアメリカ財務省の発表では、この取引を退けた理由は「重要な箇所において……極秘扱いになっている」とし、シンガポールのブロードコムのベースは主として中国と推定される『第三者外国資本』の支配下にある旨に言及した。

今やトランプ政権はCFIUSを武器としたので、アメリカと中国間で急激に大きくなっている貿易戦争と金融戦争において最前線で武器として使われている。

これはCFIUSがウラニウム・ワンの事件の頃に押しやられた屈辱的な立場とは大違いである。

2018年8月13日トランプ大統領はCFIUSの役割を強化し、以前からの海外からの直接投資に対する国境開放政策から転換し、国家安全保障に重点をおけるような新法案に署名した。

この新法案はFIRRMA(外国資本投資リスクレビューの現代化法案)といい、共和党の上院議員ジョン・コーンニンと民主党の上院議員のダイアン・ファィンスタインが共同で提出して成立した。

FIRRMAはCFIUSの承認を必要とする取引タイプを大幅に拡大し、レビューされるべき範ちゅうを、例えば、「重要な材料」や「新しく登場した技術」など新たに増加させた。

FIRRMAは「証明済み諸国」の優良国リストを作成し、相互防衛条約締結諸国を含むアメリカと友好な関係国は厳しい調査の対象としないことにした。

これは皮肉なことに、特攻大作戦部隊をCFIUSに導入した時の分析的アプローチをより厳格に、かつ法律の強制力をもって実施するだけのことだった。

このアプローチはCFIUSがウラニウム・ワンを承認した時には横に捨て置かれていた。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『AFTERMATH』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。