医療事故の定義について

決着した医療事故の定義

図1が決着した医療事故の定義であり、報告すべき医療事故は、「医療に起因した死亡であり、なお且つ、予期しなかった死亡」である。右下に記載されている、「※過誤の有無は問わない」の一文が重要である。

図1 第4回施行に係る検討会提示厚労省資料(医療事故の定義図)

この「予期しなかった死亡」要件が(図2)であり、「医療に起因した死亡」要件参考図が(図3)である。

図2 医療事故の定義(予期しなかった死亡) 省令・通知(確定版)
図3  施行に係る検討会提示「医療に起因する死亡」別紙(筆者意見により修正したもの)

「過誤の有無は問わない」について、一言述べておきたい。「過誤の有無は問わない」は、今回の制度の出発点である。今回の定義の医療事故(医療起因性要件と予期しなかった死亡要件のいずれをも満たすもの)に該当するものは、過誤の有無に関係なく、センターに報告する必要があり、逆に、今回の定義の医療事故に該当しないものは、過誤の有無に関係なく、報告の必要はない。今回の制度理解の根底にあるのが、この「過誤の有無を問わない」である。ところが、この重要な一文が、明文として存在するのは、この図1の右下の記載のみである。

今回の制度は、過誤と切り離すことによって、初めて理解できるのであって、パラダイムシフトできていない人々が混乱しているのは、過誤と切り離して理解できていないからである。ずっと沈黙を保っていた筆者がまぼろしの厚労省ポンチ絵を公表したのは、「※過誤の有無は問わない」をマスクしたスライド(図4)が出回ったからである。これについては、改めて記載したい。

図4 日医、厚生局研修会スライド(「※過誤の有無は問わない」が消されている)

本項のおわりに

水面下の交渉も含め、医療事故の定義、センター業務、支援団体業務について、ポンチ絵の推移を基に解説を行った。

医療現場にとって、医療事故調査制度の根幹を知ることが、医療を行う上の1丁目1番地である。際どいやり取りのなかで仕上がった制度であり、微妙な部分は解釈に委ねられている。制度の構築に関与した筆者らの意図が、センターその他の人々の恣意的解釈によって歪曲されることがないよう注視していただきたい。医療事故調査制度は医の倫理の問題ではなく、法律事項である。そのため条文を法律に沿って厳密に解釈することこそ重要である。