「働く」の語源は「傍(はた)を楽にする」という説もあります。どの仕事に就くかではなく、就いた仕事先でどのように働き、他者を助け、自分が幸せになれるかが問題なのです。

自分の生き方を考えるうえで、自分について自問自答し、自分がどんな人間なのかを掘って掘って掘り下げることは大切です。

印象に残っている教え子を2人紹介させていただきます。

1人目のK君は、抜群の笑顔と人を思いやる行動で、誰からも愛される子でした。彼を中学3年で担任したときに、「将来の夢」というテーマで授業を行いました。K君は堂々と、

「僕の夢は焼肉屋さんになることです。なぜならいつも焼肉屋さんに行くと、不幸そうな顔をしている人はいなくて、みんな幸せそうだからです。僕は、みんなが幸せになれる焼肉屋さんを開きます。」

と言いました。数年後、成人式で彼に会うと、彼は名刺を私に出しました。そこには、東京にある某有名焼き肉店の名前が書いてありました。

彼は中学を卒業した後も夢を追いかけ続けていたのです。K君が将来の焼肉屋さんについて語る顔は本当に輝いていました。早く彼の開く焼肉店に行って、そのときの教え子と同窓会をしたいものです(先生は無料ですよと言ってくれましたが、もちろんご祝儀をつけて払います)。

もう一人のW君は、運動能力が高く、歌もうまい子でした。

W君に、「君は多才だけど、将来は何になるんだ」と聞くと、

「なりたい職業はまだ何も決まっていません。というより何の職業でもいいんですけど、困っている人を助けてあげられるような生き方をしたいですね」

と答えました。彼は、進路学習を通して、自分の生き方を考えていたのです。

2人に共通することは、自分のことを深く理解し、どのような生き方をしたいかが明確なことでした。例えK君の夢が焼肉屋から変わっていたとしても、きっとK君は人が幸せを感じる空間を創るために、一生懸命働いていることでしょう。

このように、中学生の多感な時期だからこそ、自分の進路を考えることは、非常に大切なのです。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『教師は学校をあきらめない! 子どもたちを幸せにする教育哲学』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。