社内公募 すべては会社のため

人事評価のシステムではありませんが、普段行われる人事異動の枠組みを飛び越えて、社内異動する仕組みが、「社内公募」と呼ばれる制度です。

導入している会社もあれば、そうでない会社もあるというのが実情ですが、直属の上司や部門の意向とは関係なく実行されますので、部下にとっては、まさに夢のような仕組みです。

「希望と違う仕事をやらされている」あるいは、「とりあえず満足はしているが、もっと違うことにチャレンジしてみたい」と考える社員は、多いのではないでしょうか。

しかし、普段の職場では、上司の意向に反して異動することは、まずありません。自分の意思に従って、「希望通りの業務に就く」などという離れ業は、通常の職場では、よほどのことがない限り実現できません。

上司にとって、仕事ができる部下は、相性の良し悪しにかかわらず、都合の良い社員として、そばに置きたいと考えます。場合によっては、際どい「ウソ」をついて、部下の栄転をもみ消してしまうこともあります。

職場における実態を考慮すると、「社内公募」という飛び道具は、やる気のある社員にとって、実に「魅力的」な制度に映ります。

人事部の立場からも、人材の活性化を促進して、社内の活性化につながるのであれば、これまた「魅力的」となるわけです。対外的にも、良いイメージがあるので、会社として、洗練された「最先端の施策」をやっているような気分になるのも否めません。

以前在籍した日系企業でも、社内公募制度が、新たに導入されることになりました。全社を挙げた「画期的な施策」として登場したので、おそらく、多くの社員がこぞって応募したのではないかと思います。

何を隠そう、私もそのひとりでした。でも、応募の理由はこの制度を使って異動するため、ということではなく、制度の抱える「問題点」を、直接人事部に伝えることにありました。

当時、この仕組みを使って、優秀な先輩が他の部署に移ったのですが、後任の補充がありません。この制度、何と「補充なし」を前提として導入されていました。

「精鋭」だったかどうかはさて置き、「少数」で切り盛りしていた部署にいたので、補充がないことで、現場はしばし、混乱した状態が続くことになったのです。

他の部署で挑戦してみたい仕事も、当然ありましたので、一旦エントリーしました。しかし、日々ノルマを抱えて、悪戦苦闘の最中に起きたあの混乱は、どうにも納得できず、何とか直訴の機会を得たい一心で、行動に移したと記憶しています(まだ若かった、ということも影響したのでしょうが)。

無事応募書類が通過して、指示通り隠密裏に人事部を訪れると、いきなり、事業部長クラスの幹部との面接です。冒頭、エントリーしたポストの志望理由を伝え、いろいろな質問に答えた後で、かねてからの疑問をぶつけてみました。

「どうして異動した社員の補充がないのですか? 優秀な人材を抜かれた現場は、とても大変な状況になってしまうんです」

人事幹部から返ってきた答えは、実に単純明快なものでした。