第4章 業務実践

これまでの心構えを踏まえた上で、あなたの日々の業務を実際にどう変えていけばスマートゼネコンマンになれるか、その実践例を紹介しよう。


重要な資料は床に置く

現場監督は書類業務が多すぎる。作成もあれば、チェックもある。中には単なる所内回覧みたいな書類もあるけど、それらの全てが机の上にどんどん溜まっていく。

すると、優先順位がつかずに重要な書類に限って見落としてしまったりする。あまり目を通さずに印鑑を押してしまい、後でミスが発覚しても言い訳もできずに、どんどん悪循環を招いてしまう。

それを防止するには、大事な書類を埋もれさせない、忘れたくても忘れられない仕組みが必要だ。その一番簡単な方法が、重要な書類を床に置くってことだ。

机から離れる第一歩の所に書類を置いておくのだ。床は、誰にも平等で、集中していようがいまいが人間は床を踏みながら生きている。だから、自分の机に戻るたびに書類が目につくし、もし目にも止まらないくらい疲れていても、さすがに踏みつければ気づく。

これで僕は、仕事のやり忘れがかなり少なくなった(でも書類がシワシワになって怒られたこともある)。

すごく適当なように思う人もいるかもしれない。そんなことを現場でやったら所長に怒られて、すぐ止めさせられるに決まっている。そんな風に感じた人もいるだろう。

僕もこの方法に初めて出会った時は思わず爆笑してしまった。
「そんなラフでいいんだ(笑)」という感じだ。

しかしこれを、僕が尊敬するスマートゼネコンマンの一人で、当時は現場事務所のナンバー2の立場にあったW氏がやっていたのだから、「最近の若いやつは」なんて言われる心配もないだろう。

思い返せば、W氏との仕事が一番楽しかったかもしれない。どんな困難な状況にあってもW氏は笑っていた。もちろん、厳しさもあったが、とにかく楽しく働くことの大切さを僕に教えてくれた。

例えば、ある工場の建設現場でW氏と仕事をさせてもらった時のことだ。
その時は、建物の土台となるコンクリートの基礎を地中に造る計画だったので、機械を使って地面を掘る土工事を行っていた。

最初は順調に工事が進んでいたが、工事が終盤に差し掛かったころ、土の中から直径4メートル程の巨大な岩が次々に出てきて、機械を使っても全く掘り進めることができない状況になったのだ。

そもそも工期も厳しい現場で、全く余裕がないにも関わらず、これほど大きな障害が出てきたとなれば、普通は絶望的な
状況に落ち込んでしまうのが人間だろう。

でも、W氏はこの岩を見るなり、爆笑したのだ。

一度は絶望に陥りそうになった僕も、この爆笑につられて笑ってしまった。ひとしきり笑ったあと、東北訛りの言葉で「どうすっぺ」と言いながら各関係先と相談し、速やかに手配をかけてくれた。

翌週にはこの岩も壊し、結局予定通りに土工事を完成させてしまったのだ。

そんな典型的なスーパーゼネコンマンであるW氏が、重要な書類を床に置いて、見落とし防止をしているのだ。
もっと言えば、誰もが知る某スーパーゼネコンでやっているのだから、地場の中小企業であっても遠慮する必要はない。

最初でこそ爆笑してしまったが、W氏がやっているという事実に、むしろ正攻法と思えてきた僕は、出会ったその日からこの技をパクった。ちなみにその後の現場で、これをやっている人には出会っていない(笑)。




喫煙所で仕事の話をする

いつの時代も、職人とタバコは切り離せない。そう言っても過言ではないだろう。喫煙所があるかないか、これは現場で働く職人にとって死活問題だ。

だが、年々、喫煙者に対して厳しい時勢になってきている。職人の健康のことを考えれば、タバコは吸わない方が当然いいと思う。僕自身も、転職を機に禁煙して以来、5年になる。体の調子は明らかに喫煙していた頃よりもいい。

けれど、ゼネコン時代にタバコをやめられなかったのは、職人にとって、仕事の合間の一服が心休まる貴重な時間であるのと同じように、僕もタバコを吸う時間が仕事のリズムとなっていたからだ。

だから、できるだけ喫煙所は作ろう。喫煙所は、不思議な空間だ。
まるでお酒が入った席のように、普段言えないような話も出てくる。

職人に指示通り動いてもらうには、指示するタイミングはとても重要なファクターだけど、僕の経験上、喫煙所で伝えた指示が通る確率は、かなり高い。

ある病院の現場に携わった時、患者さんへの影響があるからという理由で現場での喫煙場所が厳しく制限されていた。
確かに仕方のないことだが、それでもやっぱりタバコを吸いたくなるものだ。

にもかかわらず、その現場は10階建てほどの建物だったので、上層階の工事になってくればくるほど、10時と15時にそれぞれ30分しかない休憩時間の半分近くが、作業場所と地下1階にある休憩所との往復時間にとられてしまう。

まして喫煙所も人数制限があるので、順番待ちで結局吸えないなんてこともあった。この時は、上層階で職人に会うたび「喫煙所を作ってくれ」と、まるで挨拶のように言われたけど、当時は僕も喫煙者だったので痛いくらいに気持ちがわかった。

タバコを吸わない人にとっては全く理解できないかもしれないけど、それくらい、職人にとっては現場作業をする上で重要な要素なのだ。

そして僕は、会議の度にその事を上司に進言し、色んな条件つきで何とか上層階に設置させてもらった。
その時は、面白いくらいに職人から感謝された。

各社ごとに専用の灰皿缶しか使ってはいけなくて、必ず消火水を使うとか、色々面倒なルールがあったにも関わらず、きっちり守られる。そうまでしても、タバコを吸うことに意味があるのだ。

そして、これまで吸えなかったことの反動もあるのだろうけど、半端じゃなく美味しそうにタバコを吸って、みんな機嫌がいい。なので、その時は大抵の仕事の話がうまく進んでしまうのだ。

その時から僕は、喫煙所でする仕事の話が最も効率がいいことに気づいたのだ。
そして、できれば現場から事務所へ帰る途中に作るのが一番だ。

もし喫煙所が事務所から離れた場所にあると、やたらと喫煙所に行くあなたは、ともすればサボっているように見られるかもしれない。

だけど、事務所へ戻る途中にあって、職人と打ち合わせをするために仕方なく入っているとしたら、少しは上司の目もかいくぐれるはずだ。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『スマートゼネコンマン~残業なしで成果を出す次世代現場監督~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。