私が感じるぐらいなので、彼らがそれに気付かないはずがない。いつも以上に彼らは神経質になっている。ピリピリと張り詰めた緊張がこちらにも伝わってくる。

携帯電話で、ひっきりなしに仲間と連絡を取り合っている。私はランドリーへと戻り、洗濯物を乾燥機に入れた。わずか数分の間に突然、彼らが全員ストリートから姿を消した。

私はただ事ではない空気を感じていた。

そのときだ。通りの角にNYPDが停まっているのが見えた。そこには野次馬の人だかりがある。あいつらかも……。私の予感は的中した。

見覚えのある男性が3人、現行犯逮捕されていたのだ。

好奇の目で見物していく者もいるが、彼らの前をさっそうと通り過ぎる者の多くが非常に冷たい視線を向けていた。人混みをかき分け、彼らの前を私はゆっくりと歩く。3人のうちの1人と一瞬目が合ったような気がした。

“Do you wanna ride with me?(オレと付き合いたいか?)”

Blue Alizeを私のコップに注ぎながら、彼がそう言ったあの日の夜のことを思い出した。トレードマークの赤いキャップは取られたまま斜め上を静かに見つめている。腕を後ろに組み、手錠を掛けられた彼らの姿はとても無力で、弱い存在に見える。

非常に屈辱的な印象を受けた。Weedを吸い、気分が良い彼らは、通りかかる女の子たちに「一緒に吸おうよ」とよくここで声をかけていた。今日だってそうだった。逮捕されるほんの数時間前、彼らは無防備なほどに能天気で、最高にハイな瞬間を楽しんでいるように見えた。

その夜、その他の人間は早速通常の業務に戻ったが、リーダーの姿だけはない。細心の注意を払ってなのか、どうやら今夜は家で静かに過ごしていた方が良さそうだと考えたのかもしれない。

いまだにNYPDの数は減らないが、客の数は少ない。気味が悪いほどの静けさの中、強めに吹き付ける真夏の風がいつもより肌寒く感じる。

少々、暇を持て余している彼らは、どことなく緊張感に欠けていて、隙があるように思える。今日は全く儲からない。こんな日もあるだろう。

一人の男性が、通りかかった客にブツを渡そうとしたか、渡したか、その瞬間のことだ。

通りの角を曲がり、こちらに1台のNYPDがゆっくりと向かって来た。彼は証拠となるものを握り締めたその手を後ろに素早く回した。警察は彼の前に静かに車を停めた。

「ちょっとこっちに来てくれるかな」。

彼は素直に従った。窓越しにしばらく職務質問を受けている。私の知っている人間だけで、今日4人目の逮捕となるのか。

完全に現場を押さえられたかのように見えたが危機一髪だったようだ。

「あまり悪いことすんなよ」。

警察は彼にそう言葉をかけているように私には聞こえた。警察は、まるで悪ガキを見守る学校の先生のような目で笑っている。

彼は運よく難を逃れた。