ドキドキの買い物待ち

20時。タクシー乗り場にたたずむ青年。私はドアをお開けし、

「こんばんは。どうぞご乗車くださいませ」

すると青年のお客様は、乗り込まずに、

「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「いま、ここでタクシーに乗って近くのスーパーで買い物したいんですけど、駐車場で20、30分待っていてもらうことってできますか? そのあと、自宅まで送ってもらいたいんですが」

(……リスクがあるなぁ。買い物に行ったあとに帰ってこない可能性を考えると、ホントはお断りしたほうがいい。もしくは、スーパーで、一度お支払いいただくか……)

「お待ちの間、メーターは動いていますがよろしいですか? それとお預かりとして、お買い物中に身分証や、おカバンなどを置いて行ってくださるならいいですよ」

私は素直そうな青年のお客様にそう答えた。

「はい! それでいいです! あー良かった! さっきはほかのタクシーに、断られたんです」

お客様はそう言いながら、安心したようにタクシーに乗り込んだ。

(だよね〜)地域性とかいろいろあるだろうけど、以前先輩ドライバーに聞いたら、

「お客様を待つことはあまりしないほうがいい。お客様がいなくなられたら、料金は自腹だから。自己責任で」

と言われていた。

ただ、困ったご様子の青年のお客様が、そう悪そうには見えなかった。

21時半までやっているスーパーの駐車場は、そこそこ混んでいた。平面の駐車場は空いておらず、立体駐車場の屋上に停めた。お客様のご自宅の鍵やカバンを預かり、ハラハラしながら待った。

20分……30分……。タクシーの運賃が上がっていくにつれ、私の不安も大きくなる。

気晴らしに、車外にで出て深呼吸。背の高いビルを仰ぎ見た。空は風が強く、雨が降り出した。店内に見に行こうか?そう思い始めた矢先に、お客様のお姿が見えた。

良かった〜! すかさず、出入り口前に車を付け、トランクを開ける。

「お帰りなさいませ」

笑顔でそう言いながら、お客様には心配していた様子なんて、微塵も見せない(笑)。

「待たせちゃってすみません」

お客様は、段ボールをトランクに運びながらペコペコと頭を下げた。

(いや、ホントに帰ってきてくれて良かったよ……)

その後、私はお客様と他愛もない話をしながら、ご自宅までお送りした。本当に素直な良い子だった。