また、ひまりは、「回復のための心構えだってさ」と言っている。

「薬を飲み続けていることを罪悪感に思わないことだって。糖尿病や高血圧の薬と同じように考えましょうだって。そして、一番に大切なのは、病気を受け入れること。これができれば治ったのも同じなんだって。アッキーママは、受け入れてる?」

「そんなのわかんないよ。心の中まではのぞけないよ」

「アッキー、たまにはカッコイイことを言うね」

「からかうなよ」

そう言いながら、二人は並んで一冊の本を食い入るように見ていたのである。

「私は、例えば白血病なんて言われたら、受け入れるどころか、泣きじゃくっているな」

「だよな~、俺は、アッキーママは、今、双極性障害と格闘しているのではないかなと思っているんだ。わかんないけどさ」

「ここ見て、ピーターラビットだって。……いや違った、間違った。そんなにかわいい言葉じゃないよね。『ラピッドサイクラー』だった。年に四、五回以上、躁状態、うつ状態を繰り返すことだってさ~。アッキーママはどうなの?」

「年に四、五回どころじゃないよ。半月寝ていて、一週間元気とか。その逆とかだな。一カ月間、元気なことなんて無いさ。いままでも全く無かったよ」

「そんなに、ころころ変わるなんて心も体も疲れるよね、きっと」

「だよね、うん」

「でも、アッキーママは、そんなことちっとも感じさせないね」

「きっと、鈍いのだろ」

「私は真剣に話してるのよ」

「わかってるよ、ごめんごめん」

「双極性障害には1型と2型があるんだって」

とひまり。アッキーはひまりの顔をしげしげと見つめると、

「血液型みたいだな」

「もうまたふざけてる!」

「ちがうよ、ごめんって」

実際、1型と2型って、1型の方がひどいのかな? アッキーは考え始めた。アッキーママは1型なのか2型なのか、とても曖昧なのである。

先日、おばあちゃんの喜寿のお祝いの席に体調が良くて出席できたのはいいけれど、それが半端なく陽気で親戚中に挨拶して回り、笑い声が絶えなかったのである。普通はすぐにクールダウンするのに、次の日に写真をプリントアウトして発送していた。親戚からのお礼の電話も長電話になり、アッキーパパに注意されていた。そして、二日後、ガクンと口も聞けない程の重い『うつ状態』が長かったのを記憶している。
 

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。
※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。