魔王の住む敵国から、残された西方の大地を守り、次の代に伝えていくこと。生き延び、決して屈しないこと。カール国王の遺志は、身分に関係なく西方諸国の人々の心に刻まれ、国を超えた、善と悪との戦いへの固いきずなになった。

そして二百年の歳月が流れた。

夜の森

木立から差し込む夕日の光は、栗毛の馬とそれにまたがる騎士の姿を穏やかに包み込んでいる。

その日の名残りと別れを告げているようだった。じきに夜が来る。人間の入る領域ではない森の果てしない暗闇が。騎士はしばし馬を止め、あたりの様子を見ていた。

端正で美しい横顔は、すべてを黄金に輝かせている荘厳な光景には全く無関心だった。

彼の深い琥珀こはく色の瞳は険けわしく、周囲をすき無く警戒し、自分の進路を注意深く見極め、計算しているようだ。年はまだ十五歳になっていないかもしれない。

訓練で鍛えられた身体つきから湧き出る精悍せいかんさと、経験の深さのような雰囲気が、少年特有のあどけなさを消し去っていた。騎士は手綱を引き、馬の頭を木々の深い方へと巡らせた。

(夜の森に入るのは危険極まりない。森の境界を進んで行こう。避けられる危険をあえて冒すことはない。)

その若い騎士、ラウルは上質の絹で織られた紋章入りマントを肩の留め金から外し、馬の背中にくくりつけた麻袋に入れた。

そしてあっという間に森の際に沿って走り、やがてその姿は見えなくなった。一時間後。小川のそばで馬を休ませていた。ラウルは、麻袋から銅製のカップを取り出し、自分ものどうるおした。

あたりはすっかり暗くなり、風に揺れる木々の間から見え隠れする空は濃い紫色に変わっていた。

やがて黒い闇が訪れる。もう十五分も経たないうちに。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『初めの物語』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。