二人の見せ場を作りながら、互いの心の進展をストーリーに沿って描いている。八時半に集まった六人が歌い踊るのが、ロジャー・イーデンスが作曲したタイトル・ソング“オン・ザ・タウン”。

「夜の街へ繰り出そう。いやなことは忘れて、今夜だけは楽しもう!」と展望台で始まり、エレベーターを降りビルの入り口から歩道の上でとダンスは続く。

明るく力強い歌声に乗って繰り広げられるダンスは、難しいステップや高い身体能力を必要とするものではないが、皆の喜びを通じて映画自体を前に推し進めるパワーがある。

カメラも正面に据えられ無駄な動きをせず、全員をフルショットで撮す。しかし男性三人と女性三人が交互に前後に入れ替わる動きがわずかな立体感を生み、互いの肩に手を置く動作が親密さを演出する。

エレベーターの中は見えなくても階数表示だけで観客の気分が盛り上がり、心の中でダンスは続く。路上に出た六人は常にカメラを見つめて動き、ダンスが観客に語りかけていることがわかる。

歩道を歩く彼らのスピードが背景の建物や通行人を媒介にして意識される。最後は進行方向にカメラが置かれ、向かって来る六人を撮す。

画面の奥、道の遙か後ろにいる通行人との対比で、奥行きや立体感が強調される。去って行く六人を撮す時のみカメラは上昇して俯瞰になる。

広い範囲を映すことで六人は小さくなり、観客がホッと一息つく間が生まれる。去りながら六人がカメラに振り返る動作が、スクリーンによって隔てられた観客の気持ちをつなぎ止める。

二次元の映像をどう立体感を持って表現するか、動くもののスピード感をどこまで描けるか、スクリーンで遮られた観客との意識の壁をどう打ち破るか。

ジーンが長年抱えてきた難問への一つの解答がここにある。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『踊る大ハリウッド』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。