血の糸

それから数日後、沖田刑事は、街の喫茶店に香村稔を呼び出し、稔に告げた。

「君の父が、若山洋子殺しを自供したよ。君の言った通りだった」

すると稔は目を見開き、沖田刑事の顔を見ていたが、やがて、顔を崩した。こめかみに血管が浮き、頬が引きつった。その顔をいきなりテーブルの上に伏せ嗚咽し始めた。

喉が震え、背中が震えた。その後、香村稔はまるで人が変わったみたいに、猛勉強をするようになり、自分の部屋もきちんと整理整頓を行い、挨拶もするようになった、と香村良平から沖田刑事に報告があった。

もともと、やればかなりの成績を得る学力はあったようだが、2月14日、大学共通一次試験では高得点を取り、第二次試験にもパスして、めざす大学にみごと合格した。

やがて、4月が来た。桜がちらほら咲き出した。それは、約束履行の季節だった。沖田刑事は香村良平を逮捕し、香村刑事は息子に手錠をかけようとした。だが、約束は果たされなかった。いや、果たすことができなくなったのだ。

大学に合格した香村稔が、

「二宮啓子を殺したのは、僕です」

と警察に自首して来たのだ。稔の証言によって、香村良平の無実も明らかになった。

「……二宮啓子は、僕が殺しました。僕は、啓子が遊んでいる女であることはよく知っていました。けれども彼女を愛していました。啓子は、交通事故で父を、病気で母を失ったんです。

彼女は僕に話しました。

『わたしはお金欲しさからこのような見苦しい生き方をする女になってしまいました』

と。

『今はとても後悔しているの。いくら楽しくない、意味がない毎日を過ごしているとしても、二人の愛だけは信じていたい。こんなに遅くなってからではなしに、もっと早くあなたと巡り逢いたかった。

私は何人もの男に遊ばれました。こういう女ですから仕方がないわね。でも、私は、男から獣みたいに遊ばれている時、運命を恨みました。本当に悲しく思いました。

私と遊んだ男の中で、稔さん、あなたは一番不良っぽい男でした。けれども、あなただけが、私の本当の気持ちをわかってくれました。

稔さんと私、今は、こんな関係になってしまって申し訳ないと思っています。私は、汚れた体を恥ずかしく思います。』