上機嫌なお客様

とある交差点付近。信号待ちをしていたら、手を挙げている男性。その男性は何度も手を挙げている。

そして、手を大きく振り出した。(酔っ払いさんね、はい、はい。信号変わったら行きますから)

私も車内から手を挙げ、了承の合図をする。乗り込んできた途端に男性のお客様は、

「あー! 女の人だ! 珍しいなぁ……」

と話し始める。

「お客様、どちらまでお送りいたしますか?」

どうにかこうにか目的地を聞き出し出発。

「飲んできちゃったよ。えっと……一人焼肉、一人刺身、一人寿司に……」

「たくさん、美味しいものを召し上がられたんですね。良かったですね」

「そんなことないよ。嫌なことあってさ……」

と話し始める。相槌を打ちながら、話し相手になる。

「……だからさ、飲みすぎちゃって〜。終電逃して、タクシーいなくて、歩いていたら運転手さん見つけてくれたからさー。嫌なことあったし、終電乗れないし、ついてないよ〜。運転手さんも嫌だよね、こんな酔っ払いで」

「いえ、嫌じゃないですよ。お客様が終電を逃してくださったおかげで、私もこうして出会えたわけですから。楽しいお話も伺えたし、道も勉強させていただきました。ありがとうございます」

「そんなふうに言われたら嬉しいなぁ。そうだよね、一期一会だ!」

お客様はその後もご機嫌で話をされる。嘔吐したり眠ったりされないように、明るく対応する。目的地に到着。

「運転手さん、ありがとう。明日からまた頑張らなくちゃね」

「こちらこそ、ありがとうございます。私も、頑張りますね! 朝方にかけて、冷え込むそうですから暖かくしてお休みくださいね。また、お目にかかれるのを楽しみにしています」

ドアサービスをしながら、頭を下げる。お客様は真夜中の道を、フラフラとご機嫌でお帰りになられた。

無事にご自宅まで帰られますように。風邪、引きませんように。

毎日たくさんのお客様を乗せるけど、皆様、辛い思いをしながら頑張っているんだな。

私も弱音吐いてないで頑張らなきゃ。こうして、私はたくさんのお客様から元気をいただいている。

顔を上げていよう! 笑顔でいよう。私も頑張りますね!

皆様、いつもありがとうございます!