ヘリコプターが飛んでいる。ここだ! 俺はここだ! 声も出ない。とうさん、厳しかったけど、俺のことを大事にしてくれていたことは知っていた。イオにぃ。大好きだったよ。イオにぃの弟でよかった。

兄貴。好きじゃなかった。俺の嫌なところを見るようで。俺は冷たい人間だ。兄貴によく似ている。顔も。自分が兄貴に似ているから、嫌だったんだろうな。イオにぃみたいに思いやり深い人間になりたかった。なれただろうか。

母のお腹の中。着床したばかりの頃。

「見えない筋腫があるから、子宮、全摘しましょう」

動揺する母。不正出血し、引っ越して初めての婦人科での医者の言葉。待って! 俺は生きてるぞ! 母は通うには遠いが、兄二人を産んだ病院に相談に行った。

検査日を決めたが、その前に妊娠が発覚した。筋腫がある状態での妊娠と思い、とても怖かったそうだ。しかし、病院を変えたおかげで俺は無事生まれた。雨の日だった。

その後、筋腫などなかったことがわかった。当時、他県で誤診で子宮全摘された事件が起こり、母は自分も同じことになっていたかもしれないと、震えたそうだ。妊娠したので助かったと言っていた。

小学校の時、中学生だったイオにぃと、ピアノの発表会で連弾した。曲はアニメ映画のテーマソングだった。金色の草原を青い服を着た王が歩くという歌。

幼稚園から小学校二年生までは、体育教室に通った。サッカーが好きだったので、三年生からはフットサルを始めた。四年生からサッカースポーツ少年団に入った。ディフェンダーだった。足が遅くて、だんだんついていけなくなっていく。

六年生では一年間だけ、地元のプロのサッカーチームの、サッカー教室に通った。リフティングが人並みにできても、足が遅ければ続けられない。

中学から、地元のいくつかあるサッカークラブの一つに入団、三年間、在籍した。ポジションはキーパーだった。そこで二軍から上がれなかった。遠征して有名なプロのジュニアの二軍と戦った。話にならなかった。相手も二軍なのに、これが現実。

この先はない。中学でサッカーをあきらめた。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『駒草 ―コマクサ―』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。