ここでは読書をされたり、書き物をされたり、入居者さん同士での囲碁将棋が行われたりするようになりました。しかし、本当に体が動かなくなってしまったら、生きがい、やりがいなど創出できるのでしょうか?

誰しも抱える悩みだと思います。私はこの住宅を運営して以来、多くの方々を看取ってきました。体が効かなくなり、生きがいや生きてる価値なんてあるはずないだろう? と思われる方もいるでしょう。

しかしそうじゃないんです。高齢になった皆さんは、そこに生きていて下さるだけでありがたいのです。私たちや職員は入居者さんから人生を学び、最後の生き様を学ばせていただけます。

そして、皆さんからの経験や知恵、教えを受け継ぎ、私たちの子供達に伝え、育んでいくことが出来ます。こうしてたすきは次世代につながっていきます。

居場所作りについて

『居室に今まで使ってきたものを持ち込み、その人らしく設けることは、お年寄りの生活に連続性を持たせ、彼らの生活や気持ちの安定につながります。

机や椅子などの、滞在できる場所を部屋の中にきちんと設けることで、居室を居場所として整えることができます。家庭にはない雰囲気の家具は、やはり家庭ではない雰囲気を演出してしまいます。

馴染みのある雰囲気の家具は、自然な滞在を誘引します。馴染みのある家具やもの、風景は記憶をそっと刺激し、会話や行為を引き出します。その場所にいる理由になります。』(1)

この「居室、居場所のあり方」は認知症グループホームの基礎になっている考え方です。しかしながら、これは通常の高齢者住宅にも当てはまる考えだと思います。

年を取って新しい環境に適応する力が落ちてきた時、豪華なホテルのような、いかにも外行きの施設は終の住処にはふさわしくないと思いました。

新しく入居される方には、これまで使われてきた家具を持ち寄るようにお勧めしています。訪問すると、そうして作られた居場所はひと目でその人らしく居心地のいい部屋のように見えます。

一方、着の身着のままで引っ越され、入居に合わせて新調した最低限の家具でご入居された場合、殺風景で病室のように見えてしまいます。

自分自身にとってもよそよそしく、何となく、長居し難いような、今すぐ元の家に帰りたくなるような雰囲気を作ってしまいます。お友達も招きづらい感じを醸し出します。

トイレ付き18㎡のお部屋。その人らしいお部屋作りがされている。(巻頭P.viii)
※本記事は、2021年1月刊行の書籍『安らぎのある終の住処づくりをめざして』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。