2000年代初め、シンガポールを訪れた時、紙幣に採用された図柄を見て驚いた記憶があります。

今日では世界的に現金を使う機会はほとんど無くなりつつあり、紙幣そのものの政治的な意味は低下しつつあるかもしれませんが、私は、紙幣デザインにはその国の中核的な価値観や長期的なビジョンが反映されていると思っています。

例えば日本が2千円札を発行した時、裏面に源氏物語絵巻の鈴虫の巻が採用され、その意図を巡って話題になったことも記憶にあるかと思います。

さて、ご存知の方も多いとは思いますが、1999年から発行されているシンガポール・ドル紙幣の裏面の図柄には、テーマが設定されています。

私が驚いたのはそのテーマについてです。2ドル紙幣が「教育」、5ドル紙幣が「ガーデンシティ」、10ドル紙幣は何と「スポーツ」、50ドル紙幣は「アート」、百ドル紙幣は「青年」です。

私は見たことがないのですが1千ドル紙幣は「政府」、1万ドル! 紙幣は「科学」なのだそうです。

20年近く前にこれらの紙幣を見た時、日本はシンガポールには「勝てないな」と感じました。

通貨は国家の価値の体現です。日本では最近になってようやく当たり前のこととして認知されるようになった「教育」「スポーツ」「アート」などの国家ビジョンを、シンガポールは20年以上前から先取りし表明していたのです。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『intelligence3.0』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。