O技師長は許可が出たから始めるようにと、L医師らに言い、L医師らは監察医務院に問い合わせたとものと誤解し、遺体の解剖を始めた。

解剖の結果、Aの遺体の血液がさらさらしていることが分かり、また、心筋梗塞や動脈解離症などをうかがわせるような所見は特に得られなかった。

解剖終了後、M医長とD医師が院長室を訪れ、被告人に解剖の説明をするとともに、Aの遺体の右腕の静脈に沿った赤い色素沈着を写したポラロイド写真を見せ、肉眼的な所見として、心臓疾患等が見られない旨告げた。

その後、L医師も院長室において被告人に対し、心筋梗塞等、病死で死因を説明するようなものはなかった、血管が浮き上がっていた。血液がさらさらしていたなどと告げ、90%以上の確率で事故死であると思う旨の解剖所見を報告した。

2)

二月二十日、被告人はJ副院長などとともに、Aの夫であるCの自宅に、それまでの経過について中間報告をしに行ったが、

その席において、Cから、同人らが撮影した、Aの遺体の右腕の異常着色を写した写真を示され、事故であることを認めるよう詰め寄られ、病院の方から警察に届け出ないのであれば、自分で届け出る旨言われた。

そこで、被告人は、帰り道に、同行した病院関係者らと話し合い、警察に届け出ることを決め、二月二十二日、東京都衛生局長らと面談してその旨を報告したところ、警察に相談する形で届出するようにとの指示を受けて、同日中に、渋谷警察署に届出をした。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。