新しい仕組みの詳細は聞いていないので、はっきりしたことは言えませんが、新聞などで知る限り、会社の業績自体は、売上、利益ともに極めて順調だったので、おそらくここでも、管理職の基本給見直しが影響したのではないかと思われます。

同時に、上司による「好き嫌い」評価に、拍車がかかった可能性も否定できません。

以前、新聞でこんな記事を目にしました。

「1990年代後半から2000年代にかけて、多くの日本企業が成果主義の導入を検討し、そして実行に移しました。しかし、成果主義の導入が期待した成果を生まなかった、あるいは逆に士気と生産性を低下させたと評価される事例が相次ぎました。そのため、成果主義は日本の風土に合わないと主張する声もありました」

(やさしい経済学第10章「良い組織・良い人事」東京大学教授・大湾秀雄、日本経済新聞 2014年4月16日)

記事は続きます。

「本当にそうでしょうか。〈中略〉主な問題は、現代の多くの職業については、商人の生み出す利益であるとか、戦いにおける勝利とそこで勝ち取った戦国武将の首の数のような客観的な成果指標がなく、成果全体が正確に測れないことでしょう。

そのため、成果指標で測れないものが無視され、例えば同僚や他部署と協力・連携するということが阻害されたりします。また、成果を良く見せるために、目標設定や販売計上時期を操作するということも起こり得ます。

成果指標が主観的であれば、経営側の契約順守姿勢も弱まり、会社の人件費抑制のために、評価を合理的な理由もなく引き下げるという行動にもつながります」

成果主義の最大の問題は、「個人としての成果」が測りにくいことです。また、企業経営者が「人件費抑制の手段」として、悪用する場合も考えられます。

人事制度は、従来の年功序列型から脱却して、成果主義に移行するという、歴史的な変遷を経て今日に至っています。その過程で発生する、様々な問題を解決しながら、改善を図ってきました。

しかし、成果主義の抱える「本質的な矛盾」が顕在化する中で、多くの日系企業は、再び大きな「転換期」を迎えているような気がしてなりません。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『なぜ職場では理不尽なことが起こるのか?』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。