混乱を招く淫らな女

体調が良さそうなときに、身体を起こしてスーパーへ行く。その途中、大家さんに会う。

「あら、橋岡さんこんにちは」

その一言に涙が溢れるのだ。話しかけてもらえたからだ。倒れてから仕事に復帰するまでの三カ月間。日記にはひたすら自分を励ます内容を書き綴った。

そんな中新聞の勧誘が来る。その日はとても楽しかったと書いてある。久々に人と会話をしたからだろう。

布団からやっとの想いで這い出て、ご飯を炊く。リハビリも自分でしなければならない。少しずつ腹筋運動を始め、部屋の中で歌を歌う。誰とも口を聞かないので、声を出す練習をするのだ。

回復してくると、ダンベルを持ち、音楽に合わせて持ち上げながら歌う。それを延々と繰り返す。夜になると、窓を開けて月を探す。部屋から月が見えると、必ず良くなって元気に働けるようになると思うことができる。

月が見えなくても、必ず現れることを信じて待つのだ。こんな時、電話がかかってくるのは保険屋のおばちゃんくらいだ。私はとにかく誰かと接触したいので、近くのファミレスまで来てもらうことにした。

「蓮ちゃん? 別人じゃない? 誰だかわかんなかった。ずいぶん痩せたね」

その言葉に大きく傷つく。嘘でもそんな時は、変わらないねと言われたかった。