「本当はすすめるもんじゃあないんだがね。駆け落ち――したらどうだい?」

「駆け落ち……ですか?」

「そうさ。私のおとっつあんとおっかさんも駆け落ちしたらしいのさ。結果的に二人はおっ死んじまったけど、幸せな最期だったって聞いている。あたしも変な気を起こしてやらかしちまったけど、愛する人の手を取れたのは良かったと思っているよ」

「お菊さん……」

そう言って優しく微笑むお菊を見てお幸は決心したようだった。

不安も拭えないが、強硬手段も止む無し、と考えたのだ。

はじめは駆け落ちなんかするつもりはなかった。

ただ、一緒に居たくて、それなのに肉親から反対をされて、秘密裏に逢瀬を重ねていたのだ。

逢う場所はいずれも家からは遠く離れた場所だった。その時の手引きはお菊が請け負ってくれていた。

藤七郎の仕事が休みの日は、お幸はお菊と一緒に出掛け、お菊が探してくれた茶屋で落ち合うことにしていた。

一緒に過ごせる時間は本当に少なかったが、それでも、お幸と藤七郎にとっては至福の時間だった。

その間も、お幸は与七とお吉に直談判をし、仲を認めてもらおうと懸命に訴えた。

お菊も幾度となく口添えをしたが、与七とお吉の考えは変わることはなかった。

依然として答えは反対する、の一言に尽きた。