踊る大紐育

次の場面はテイラーの経営する俳優斡旋所。ソフィー・タッカーとジュディ・ガーランドの親子が現れ、ガーランドが“エブリバディ・シング”を歌い、タッカーら一同が唱和する。あくまでガーランドの歌を聞かせるのが目的であって、ストーリーは停滞しテンポが落ちる。住居を探すためテイラーとパウエルはタッカーが経営する芸人のための下宿屋を訪れる。

「踊るブロードウェイ」ではいびき研究家で出演したウィルドハックが、ここでは「くしゃみ研究家」として出演し蘊蓄を傾ける。前作同様ストーリーには全く関係がなく、映画の流れを考えれば無駄なシーンである。劇場で行われるオーディションに現れたソフィー・タッカーが歌うのが“近いうちに”。彼女の堂々とした歌声を聞くことができるが、これもタッカーの芸を見せるためでしかない。

オークションで自分の馬を手に入れたパウエルと調教師になるジョージ・マーフィーが歌い踊るのが“百万長者になった気分”。踊り始めた二人は公園のあずまやに入り、雨に降られる。状況設定からして当然、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャース主演の映画「トップ・ハット」の有名なナンバー、“雨に降られるなんて素敵な日じゃない?”を意識して作られている。

しかし本来このダンスは恋人のロバート・テイラーと踊るべきはずのものである。それをマーフィーと踊ったところでロマンティックな雰囲気になるはずもない。おまけに二人の踊りのバランスが取れず、残念ながらダンスからケミストリーは生まれていない。